【副属7の和音】セカンダリードミナントとは【一時的転調】

セカンダリードミナントとは、ドミナントモーションを利用した一時的転調の技法の一つです。単調な曲調から脱し、音楽としての楽曲・調を拡張する上で応用が利き、数多くの楽曲に使われている重要なテクニックです。

ドミナントモーションを知る。

まずは、セカンダリードミナントを支える「ドミナントモーション」について理解しておく必要があります。Key=Cを例にすると、「G7→C」という進行が最も終止感のでる進行でした。これはディグリーで表記すると、「V7→I」の進行です。ダイアトニックコードの5番目のドミナントセブンスコード「V7」からそのスケールの主和音である「I」に進行しています。より詳細に言えば、「V7」が含む全3音(トライトーン)が「I」に解決する進行です。最も終止感を出すことが出来、これをドミナントモーションといいます。

セブンスコード(7th)はドミナント(V)の特権

私たちは普段何の脈絡もなくコードを聴いたとき、単純に理解するためにそのコードを主和音として認識します。Aのコードを聴いたらAメジャーと認識する感じです。

ではドミナントセブンスコード(V7)を聴いたときはどうでしょうか?この和音を聞いたときは私たちは瞬時にドミナント(V)のコードが来ているな、と認識します。セブンスコード(○7)はドミナント(V)の特権であり、調に一つしかありませんその不安定な響きは私たちは次に来る主和音(IかIm)に備えさせます。V7は応用範囲が広いため、拡張され、一時的転調やセカンダリードミナントなど様々なテクニックが生まれてきました。

セカンダリードミナントとは

セカンダリードミナントとは、本来そのキーに1つしかない「V7→I」のドミナントコード進行(ドミナントモーション)の流れを拡張して、他のダイアトニックコードに対してもドミナントモーションを出来るようにしたものですドミナントセブンスコードを使う事で、私たちは次に主和音が来ることを想定します。不安定な響き→主和音へ解決することの聴覚的効果、納得性を利用したテクニックです。

どんなコードでも「仮のI(主和音)」とすることで、そのコードに向かうV7のコードを使ってKeyを抜け出す事ができるのです。無理矢理ドミナントモーションを起こすこの技法をセカンダリードミナントといいます。ちょっと力業ですが、非常にカッコイイコード進行が作れるのが特徴で、あらゆる音楽ジャンルで用いられています。

■基本原理
セカンダリードミナントは日本語で副属7の和音といいます。セカンダリー(2番目の)ドミナント(属7)なので、属7では無く副がついた副属7の和音と呼ばれています。予備の(副次的な)ドミナントセブンスコードという意味です。

ドミナントモーションを言い換えれば、ドミナントセブンスコード(V7)が完全4度上行する進行です。これをセカンダリードミナントに言い換えれば、仮の主和音(I)から完全4度下のドミナントセブンスコードを前に置けば良いということになります。別の言い方をすれば、主和音と仮定するダイアトニックコードのV度上のドミナントセブンスコードを手前に持ってきます。

セカンダリードミナントはI度以外のII度、III度、IV度といった、ダイアトニックコードのどのコードに対しても仮のI度と見立ててドミナントモーションを行うことができます。

セカンダリードミナントの例外

Cメジャーのダイアトニックコードでは、VIIm7-5を除けば、他のそれぞれのコードはそれぞれをI(Im)を主音としたメジャーとマイナーキーにおいてトニックとして成り得ます。一つの例外であるVIIm7-5は、それをIとするコードスケールが無いために成立しないと考えます。それに加えて「○m7-5」はコードの中に減5度音程を持っており、ドミナントセブンスコードが持つ3全音の解決が不可能なのもドミナントモーションを満たさない要因となります。

繰り返しになりますが、I以外の和音に対し、仮のIと捉え、完全4度下のドミナントセブンスコードを配置し、ドミナントモーションを作るのがセカンダリードミナントの基本的な考え方です。ドミナントモーションという支えがあって可能な転調テクニックです。

理論書によっては完全4度上行すればドミナントモーションであると論じているものもあります。実際の楽曲では「○7→○m-5(○m7-5)」への進行は充分あるので、セカンダリードミナントとは扱わないものの、通常のコード進行として扱えるものと捉えましょう。

どちらにせよ、完全4度下のドミナントセブンスコードを仮のIの前で使うことがセカンダリードミナントの簡単な作り方です。

セカンダリードミナントは一時転調。他のキーの響きを借りている。

セカンダリードミナントは短い間他のキーの音を借りる意味合いから、「借用」「部分転調」とも言われています。ジャズなどの分野で扱うオルタードと同じ考えで、全体としては軸となるキーの流れに在りつつも、一時的に他の調の響きを持ってくることで楽曲全体の中に揺らぎを作り出しています。こうした揺らぎを作ることで単調なコード進行を避けることが出来、曲に奥深さを与えることができます。

応用と発展:セカンダリードミナントのコードスケール・メロディ

セカンダリードミナントでは、仮のIに対してドミナントセブンスコード(V7)を割り当てるので、使えるコードスケールは元のダイアトニックコードでは無く、V7で使えるミクソリディアン系のコードスケールとなります。

初心者のうちは、シンプルに借りてきた先の調を使うと覚えてもいいでしょう。

ポイントとしては、使う音を元のダイアトニックスケールに近づけるようにします。

コードスケールの知識が必要になりますが、メジャーコード(行き先がI)に対してのセカンダリードミナントはすべてミクソリディアンを割り当て、マイナーキー(行き先がIm)に対してのセカンダリードミナント上ではHMP5Bかミクソリディアン♭6を割り当てます。これは元のスケールとの差異を減らし、違和感なく綺麗に流れる響きを作るために注意すべき点となります。

また、両者ともドミナントセブンスコードの特性から、オルタード化できます。

ドミナントセブンスコードはオルタード化することで、ミクソリディアン系のスケールから好きなものを選択できます。オルタード化をすることで、更なる響きの可能性を広げることが出来ます。例えば♭9、♭13にオルタード変化させるなら、HMP5Bやスパニッシュ8スケールが選択でき響きの可能性が拡がります。

HMP5Bとミクソリディアン♭6では、ノンコードトーンが元のキーに近い方を選びます。コードトーンは変えられないので、ノンコードトーンが元のダイアトニックスケールに近い方を選びましょう。そのほうが違和感なく繋がります。

なぜ元のキーに近いコードスケールを選択するのかというと、セカンダリードミナントはあくまで一時に別の調から響きを借りてきているのであって、「本格的な転調」ではないからです。

これも必ず守らなければならないルールという訳では無く、作曲家によって、揺れ幅を大きくするためにあえて元のキーから外れたほうのコードスケールを使うこともあります。理論的に正しいかどうかでは無く、作曲家は「自分が良いと思った響き」を選択すれば良いのは常に忘れないようにしましょう。