教会旋法・チャーチモードについて。長調と短調を脱した作曲法

教会旋法・チャーチモードについて。長調と短調を脱した作曲法

現代において作曲を学び始める場合は長調、短調から学び始めるのが普通です。歌モノのポピュラー音楽の99%以上が長調、または短調で作られており、それ以外の技法が使用されるのは極めて例外的といえます。しかしながらクラシックやジャズ、映画ドラマ、アニメ・ゲームといった劇伴、BGM系の楽曲では様々な音楽的効果や雰囲気を得るために長調でも短調でもない多種多様な作曲技法が用いられています。長調でも短調でもない作曲技法はBGM系の楽曲において当たり前のように使用されています。今回はその長調と短調を脱した作曲法として、旋法(モード)を使った作曲技法について学びます。

旋法(モード)を用いた作曲技法とは

9世紀頃、グレゴリオ聖歌の発達と共に教会旋法という理論が徐々に確立しました。ドリア旋法、ヒポドリア旋法、ヒポフリギア旋法、リディア旋法、ヒポリディア旋法、ミクソリディア旋法、ヒポミクソリディア旋法の8つの旋法から成り立っていて、これが厳密な意味での教会旋法となります。時代が進むにつれて、イオニア旋法(アイオニアン)、エオリア旋法(エイオリアン)、ロクリア旋法(ロクリアン)が追加されていきます。

ジャズ理論ではアイオニアン、ドリアン、フリジアン、リディアン、ミクソリディアン、エオリアン、ロクリアンを教会旋法・モードと呼んでいます。

旋法・モードにおける作曲の2つの視点。

旋法を用いた作曲技法には2つの視点があります。1つはクラシックやジャズの理論に結びついたものもう1つが民族音楽です。ケルト音楽のようにモードで作られている楽曲は、ずっと古い時代から伝わっているものになります。そして、こうした民族音楽に使われている旋法はクラシックとジャズに紐付いた旋法(モード)と同じなので、旋法(モード)を知れば民族音楽が作れるようになります。

クラシック音楽における旋法(モード)の使用について

クラシックにおける旋法の使用は過去にあったものを再発見したものとなります。主に教会旋法の中から長調を意味するアイオニアンと短調を意味するエオリアンが台頭してきましたが、それまではドリアン、フリジアン、リディアン、ミクソリディアン、ロクリアンの音階は当然のように作曲家たちの中で使われてきました

近代における教会旋律の復活はフランスの作曲家ドビュッシーが大きく貢献しています。ドビュッシーの曲には旋法がたくさん用いられており、同様にフランスの作曲家ラヴェルの作品にも多くの旋法性を見いだすことができます。長調と短調による作曲に閉塞感を感じていた当時の作曲家にとって、旋法は魅力的な素材に映ったのは確かでしょう。

長調系と短調系のモード

スケールの項目で学んだ通り、旋法は7種類あり、長調系と短調系にそれぞれ分かれます。
長調系にはアイオニアン、リディアン、ミクソリディアンの3種類があり、短調系にはエオリアン、ドリアン、フリジアン、ロクリアンの4種類があります。長調系か短調系かはダイアトニックコードの主和音がメジャーかマイナーかで決まっていますが、それぞれ雰囲気が異なります

特性音について

アイオニアンとエオリアンが同じスケールの転回形であるように、モードは基本的にはすべて何かしらのスケールの転回した(音の並び替えを変えた)形であるといえます。

実際に作曲する上で各モードの特徴を出していく必要があるわけですが、そのモードの特性を決定づける音を特性音といいます。特性音の見つけ方は、長調系のモードの場合は基本となるメジャースケールと異なる音短調系のモードの場合も基本となるマイナースケールと異なる音が特性音となります。

各旋法の特性音をまずはしっかりと覚えましょう。

・各旋法の特性音
リディアン #11th
ミクソリディアン 7th
ドリアン 13th
フリジアン ♭9th
ロクリアン ♭9thと♭5th

ここでは、メジャースケールとナチュラルマイナースケールと同一のアイオニアンとエオリアンは特性音がないとします。

作曲の中ではこれらの特性音を意識して出したり出さなかったりすることでモード感を演出します

旋法・モードでのメロディ作り。

CメジャースケールとFリディアンスケールはどちらもドレミファソラシドで構成されているので、自由に曲を作るとメジャースケールと同じになってしまうのが悩みの種です。位置が違うだけなので、メロディの動きだけではどちらの調に属しているかが分からなくなります

そのため、
・主音で解決する
・特性音を多めに、長めにつかう
・特性音を強拍で使う

など工夫を凝らします。

特性音を意図的に強調するようなメロディーを作ることで明確なモードらしさを出していきます。またモードらしさをメロディでは出さずに伴奏に任せることでメロディは自由自在に動き回るようにすることもあります。

旋法・モードでのコードと対位法について

古典的な意味での教会旋法にはコードやコード進行という概念はなく、カデンツもドミナントモーションやII-V,サブドミナントマイナーもありません。これらの技法は長調と短調の技法といえます。

長調・短調が台頭する以前の音楽は対位法全盛の時代であり、”同時に音が鳴る”という意味での和音はありましたが、現在のように主和音や属和音などの分類はなく、それによって生まれるドミナントモーションという考えもありませんでした。カデンツという概念が生まれたのは音楽の歴史では最近のことなのです。

本当の意味での旋法を身につけたければバッハ以前の教会旋法全盛期の作家の作品に触れる必要があります
。それらの作品は対位法で書かれているので、対位法を勉強することが教会旋法の用法を学ぶことになります。

一方で、近代フランスのドビュッシーやラヴェル、ジャズにおけるモードジャズでは現代風にアレンジされた教会旋法を感じることができます。

現代における教会旋法での作曲は、コードやコード進行の概念を利用した方がとっつきやすいため、長調・短調のダイアトニックコードのように各教会旋法に対して3度堆積でコードを作っていく方法がとられます。

Dドリアン
Dm Em F G Am Bm-5 C

Eフリジアン
Em F G Am Bm-5 C Dm

Fリディアン
F G Am Bm-5 C Dm Em

Gミクソリディアン
G Am Bm-5 C Dm Em F

Bロクリアン
Bm-5 C Dm Em F G Am

4和音もあれば、テンションも使うことができます。使い方は長調・短調の時と同様です。

旋法・モードでのコード進行について

モードのダイアトニックコード上には長調・短調のような機能分類が存在しないことが大きな問題として考えられます。繰り返しになりますが、トニック、ドミナント、サブドミナントといったコードに機能をつける分類は長調・短調におけるもので、モードには存在しないのです。

教会旋法に基づいて作曲を行った時代はカデンツに基づくコード進行無かったので当然ですが、現代はコードで考えるので「特性音を含むコード」と「特性音を含まないコード」という分類でコードを機能分けをすることが多いです。

長調・短調はトニックの安定した響きとドミナントの不安定な響きの移り変わりで成り立っていますが、モードの場合はモードの持つモードらしい響きの移り変わりでコード進行を作っていきます

逆に言えば長調・短調のようなコード進行(ドミナントモーションやII-V)の響きではモードらしい響きは作り出せないといえます。同じコードでもテンションの有無をコントロールすることで特性音の付け加えが出来るので「ダイアトニックの何番目のディグリーにある特性音を持つコード」という覚え方は意味がありません。各モードの特性音を知り、コードに入れるか入れないかを判別していきます。逆に言えば、モードにおけるコードボイシングはとても自由なのです。

コード進行を作らず、あえて同一の単一のコードで作ったりしたほうがモード感がでますコード進行のように作ってしまうと、長調、短調のような感じになりがちになります

ペダル音の使用や、アイオニアンとエイオリアンを一度も使わないことでもモード感を出せます。モードの特性音を含んだコードを使いましょう。

モード感の演出という点では、II-Vやドミナントモーションの使用も避けましょう。ドミナントコードの全3音もセブンスコードの形で用いてしまうと強くドミナントの印象が出てしまうので、sus4としたり、3和音で使ったり、テンションを加えたりaddコードなどで使いましょう。

上手にモード風の楽曲を作るには

上手くモードの曲が作れない場合は、お手本となるモードで作られた楽曲をたくさん聴いて分析してみることが有効です。基本的にはバロック期以前の作曲家全般、ペロタン(ペロティヌス)、ジョスカン・デ・プレ、ギョーム・ド・マショーなどで古典的教会旋律の用法を知ることができます。本家の教会旋法をまずは知りましょう。近代フランスではドビュッシーを筆頭に、ラヴェル、ジャズであればモードジャズというカテゴリーがモードで出来ているジャズになります。長調、短調での作曲が出来ればモードでの作曲も慣れの問題になります。

アイオニアンとエオリアンについて

アイオニアンとエオリアンは、普通にコード進行で曲を作ってしまうと、長調、短調の作曲と区別がつきません。そこでキーとなるのが対位法です。教会旋律全盛の時代は、作曲家たちは対位法を拠り所に作曲をしていました。

アイオニアンもエオリアンも対位法に則って作曲すればアイオニアンやエオリアンのモードらしい曲をつくることができます。対位法は過去の多くの作曲家の支えとなった技術なので、学び得るところも大きい技法です。

参考・出典

・「作曲基礎理論 〜専門学校のカリキュラムに基づいて〜」井原 恒平 (Amazon)