メロディ作り概論

美しいメロディを作る力は作曲家にとってとても重要です。特に歌もの音楽を作るときは何よりも大切な要素となります。メロディはセンスが必要な分野で、上を目指せばきりが無い分野ですが、訓練次第で良いメロディを素早く正確に作ることが出来ます。

メロディはただ作るだけではそれほど難しくありません。
お風呂の中の鼻歌から生まれたメロディで作曲する作曲家もいます。

ただ、簡単にメロディは作れる反面、本当にカッコよくて良いメロディを作るのは長期間作曲の経験がある人でも難しいです。
センスや天性の才能の部分が問われる分野ですが、音楽的な訓練を積むことで上達していく事が出来ます。

メロディ作りの基本
・良いメロディとは
良いメロディという定義は難しく、おいしい料理とは何か、カッコイイファッションとは何か、良い趣味とは何かと同じような質問です。人それぞれな部分があり、個人の趣味嗜好によるところが大きいのです。万人に通じる良いメロディは非常に少ないと言えます。
しかし、センスの前に基本的なことが出来ている必要があります。今自分が使っているのはどんな調で、どのコードを使って、この音は何なのか、をキチンと言える必要があります。

■和声音と非和声音
和声音とはそのコードにおけるコードを構成する音、コードトーンのことです。
コード設定が3和音でも常に4和音を和声音として考えていきます。
非和声音とは和声音以外のすべての音を指します。
和声音は無条件にいくらでも使うことが出来ますが、非和声音はコードに対して協和しない響きを持つため、使用に制限があります。使ってはいけない音ではなく、経過音、刺繍音、倚音(いおん)、逸音、掛留音、先取音などのルールに従って積極的に使うべき音です。これらの非和声音をいかに上手に使いこなすかが、上手なメロディ作りの土台となります。

■和声音について
メロディを作るときには和声音はいくらでも使えますが、USTやスラッシュコードの場合はテンションを大量に含んでいるため、メロディとコードがきれいに響き合うためにはテンションとメロディの関係性を意識する必要があります。

コードがテンションだらけなのに、メロディが4和音の和声音のみで構成された場合はきれいに響きません。
コード、テンション、メロディーのテンションが上手に絡み合うことできれいに響きます。
コードはテンションなしでメロディがテンションが多めだとかみ合わない印象はしますが、コードがテンションだらけでメロディが4和音のときよりかはきれいに響きます。

音楽としてきれいに響かせられる限界は基本的には4和音、あるいは5和音までです。
理論的には正しくても、音がぶつかるような使い方は濁って聞こえます。

同時になる音は4,5音まで、コードネームだけではなく、実際にコードで鳴っている音とメロディの相互関係を考える、2度のぶつかり合いが増えすぎないようにする、という3点に注意してメロディとコードをつくりましょう。

■非和声音の種類
非和声音には経過音、刺繍音、倚音、逸音、掛留音、先取音の分類があります。この分類から外れた音は外れた音として捉えます。
非和声音のテンションはメロディックテンションといって和声音と同様に用いるテクニックがあります。

・経過音
経過音は和声音同士を2度でつなぐ音です。非和声音が2度で和声音に進むことを「解決」と呼びます。

・刺繍音
刺繍音は和声音から2度で離れてまた戻ってくる音です。

・倚音(いおん)
倚音は前置き無く突然登場し、その後2度ですぐ上か下の和声音に進む音です。前置き無い状況は、倚音の前が休符である事、倚音の前の音符が3度以上の跳躍をしている場合を指します。倚音の倚という漢字は寄りかかるという意味です。

・逸音(いつおん)
和声音から2度で離れていって、もう戻ってこない音を逸音と呼びます。逸音の後は必ず3度以上の跳躍や休符となります。もとの音に戻る場合は刺繍音扱いになります。

・先取音(せんしゅおん)
先取音は次の和音のコードトーンを先取りしている音です。次の和音に先駆けてその構成音を鳴らしています。
多くの場合先取音とその次の音は同じ音である場合が多いですが、そうでない場合もあります。

・掛留音(けいりゅうおん)
掛留音は前の和声音がタイを使って引きののばされ、次の和音に入ってもタイを伸ばした上で2度で和声音に解決する音です。

■非和声音のルール
休符や3度以上の跳躍で非和声音はリセットされる。
休符が入ると非和声音としてのルールは一旦リセットされ、考え直しとなります。
非和声音は2度進行が前提なので、3度以上の跳躍は休符と同様にリセットすると考えます。
非和声音として音を処理する上で休符と跳躍に注意しましょう。

・非和声音は基本的には4分音符程度で使用する
非和声音は4分音符ほどの短い音価を持つ音符で使うのが一般的です。非和声音は和声音に対して協和しない音ですので短めに使うようにしなければいけません。
たとえばアボイドなどは引き延ばすと非常に汚く響きます。
長くても付点4部音符程度までです。
更に言えば、テンポ、リズムが速いか遅いかによっても聴こえてくる印象は違うので、最終的には自分の耳で判断します。

・テンション、アボイドによる協和度の違い メロディックテンション
同じ非和声音でもアボイドとテンションでコードに対する協和度がまるで違ってきます。
基本的に非和声音は4分音符程度で用いるべきものですが、テンションの場合はもっと長い音符でつかってもそれほど強い不協和は起こしません。

メロディックテンションでは、テンションを和声音として扱うテクニックです。クラシックの和声学では全長転位と呼びます。音がぶつかったり、音の種類が増えすぎないように注意しながらテンションを使っていくことでしゃれたメロディを作り出すことが出来ます。
テンションはもともと和声音に対して不協和感が弱い特質を持つからです。

・2重、3重の非和声音も使える。
非和声音は2重、あるいは3重で使用することが出来ます。異なる種類の非和声音を連続して用いたり、上下に対して2度で動いたりすることができます。
非和声音は使えば使うほど不協和感は上がってしまうので、アボイドの場合は特に自分の耳で良く聞きながら使用してください。

・すべての音は必ず和声音かメロディックテンション、6種類の非和声音のどれかにならなくてはいけない。
メロディーは必ず和声音、メロディックテンション、6種類の非和声音のどれかにならなくてはなりません。このどれにも当てはまらない場合は、音が外れて聞こえる場合がほとんどです。逆に言えば、少なくともこのどれかに当てはまれば理論的に外れて聴こえることはないことを保障されているようなものです。

■メロディーとリズムの研究
メロディーは二つの要素で成り立っています。

1つはハーモニーの要素
和声音、非和声音をどのように使っていくかで、作家性がでるところでもあります。

2つはリズムです。非和声音ではどれも単純な使い方しかしていなくても、
リズムの点から見ると工夫を凝らしているものもあります。
たくさんの曲を研究して、いろいろなリズムパターンを取り入れることでメロディー作りの幅が拡がります。

リズムの癖は自分では気づきにくく、いつもメロディーを作るときに同じようなリズムを使っていたり、癖で毎回同じ動きをしている傾向があります。

マンネリという負のスパイラルに陥る前に自分が使ったことのないリズムを積極的に取り入れるようにします。

あまり使ったことがないリズムをつかった曲を見つけたら、そのメロディーのリズムの部分だけを取り出して、音程を変えてオリジナルのメロディーを当てはめてみます。
リズムの研究として、たくさんの譜例を研究していきます。

・休符を積極的に使う。
メロディー作りでは休符を置くことが最も難しいです。
音が鳴っている状態よりも、音が鳴っていない状態をどう作り出すか、が重要です。
初心者ほど音符で埋めがちになり、上級者ほど休符を置くのが上手になります。

音楽において、音符と休符は等価です。
休符によってフレーズのまとまりや最後尾を引き締めたりします。伴奏を目立たせることでのメリハリや対比、音楽の呼吸が生まれます。

また、メロディ作りでは同じ音型の繰り返しを使い続けていないかどうかを考える必要があります。
もし単調で飽きが来るようなメロディーであれば、全体の音型を見直してみるといいでしょう。
異なった音型やリズムといった要素を用意することで流れを作り出します。

・コードスケール
ある和音のコードスケールを一時的に別のものに変更することでメロディーに変化を与えることができます。
コードスケールのみを変えることで、メロディーに変化を与えることが出来ます。
コード進行はそのままで、コードスケールのみを変えて他のキーの響きを取り入れる、というのがポイントです。
和音は変えないので、その和音が使えないコードスケールを使うことはしません。

コードスケールを変えることでテンションの構成も変わり、メロディーで使える音やテンションの可能性が拡がります。

コードスケールが変わるということは、出身キーも変わるので転調のきっかけにもできます。

・クロマティックオルタレーション
「半音階的変化」のことで、ノンダイアトニックの音を非和声音として使用することです。半音階的なメロディーが作れるようになります。
あくまで非和声音のルールの範囲で行うにとどめます。行き過ぎるとかつてクラシック音楽が経験した調性の崩壊に繋がっていきます。

・スケールアウト、アウトサイド
ジャズのアドリブやBGMで使われるテクニックで、メロディのみのキーをスライドさせるテクニックです。
アウトサイドしているスケール間には規則性はなく、それぞれ自由にスケールを行き来しています。
ルールはなく、かなり元の調性とはかけ離れた響きを突然持ってくることになるので、アウトするスケールの入り方、戻り方に注意を払います。
アウト感が強いため、何らかの規則性を持たせます。

音を外すことが狙いなので、自信を持って音を外せるようになるためには相応の経験とセンスが必要になるでしょう。
楽曲においても向き、含みがあります。

・好きな曲を分析する
他人の曲の分析はとても有効で、重要なことです。ヒット曲や自分の好きな曲のメロディーを分析するのは大切で、プロの作曲家のほとんど全員が他人の曲を大量に分析しています。音楽学校でも分析はアナリーゼとして授業があります。コンスタントに他人の曲を分析する学習を続けることで得るものはたくさんあります。