楽式について

楽式について

今回は楽式(曲のフォーム)についての知識をまとめます。楽式とは簡単に言ってしまえば曲の構成のことです。音楽は時間芸術ですから、繰り返しや反復などブロック単位で考える様式美の研究が欠かせません。

ブロックを構成する要素とモチーフ(動機)

ポピュラー音楽ではAメロ、Bメロ、サビなどのように区分けされたブロックを組み合わせて楽曲を構成します。

クラシックでは、一定の型となる動機(モチーフ)やソナタ形式、フーガなどの構造の形式的な分類のために楽式という言葉を使います。

実は形式という観点ではクラシック音楽よりもポピュラー音楽の方が構造が決められています。ポピュラー音楽の多くは8小節の基本構造を主体とします。この8小節を1ブロックとして考えてみます。

ブロックを構成する一つが動機(モチーフ)です。モチーフは特徴的な動きをした数個の音符と休符の単位を指す言葉です。クラシックでは特に重視されますが、ポピュラーでも言葉でモチーフと明言されなくとも明らかにモチーフを意識して作られた楽曲が多いです。

作曲はクラシック、ポピュラー問わず、このモチーフをどう発展していくのかが重要になります。

もちろんモチーフにとらわれすぎるのも問題です。若くして聴力に障害を持ったベートーヴェンはモチーフを発展させていく様式美を追求する傾向が高く、一方で対照的なのがシューベルトでモチーフを発展させるよりも自然なメロディーを持つ現代で言うところのポピュラー音楽的な発想の曲を作っていました。

8小節の中でのモチーフ構造

8小節のモチーフ構造の例を見ていきましょう。

回帰:abcaのような最後に帰ってくる構造
連続:aaaaのような連続してモチーフを使ってモチーフを印象づける構造
対照:abacのようにabとacの対比が目立つ構造

他にもabcdといった何の原理もなく無関係なモチーフの寄せ集めもできます。色んな組み合わせが可能なので試してみましょう。

2小節で1つのまとまり、4小節で1つのまとまり、8小節で1つのまとまりといったように、どの長さで1つのフレーズのまとまりを作るのかも自由です。自分が普段使っている型がどういうものかを研究して、普段使わないような型を意識して使うようにすればいつもと雰囲気の違うフレーズが作れます

1部形式とは

8小節1つのみで出来ている楽曲を1部形式と言います。必ずしも8小節とは限りませんが、Aブロック、Bブロックと分類ができない場合は1部形式に分類されます。これは最も単純な構造で、民謡や童謡、BGMによく見られる構造です。

2部形式とは

2部形式は2つのブロック構造を持ち、「Aブロック」「Bブロック」という2つの要素から構成される場合と「Aブロック」「A’ブロック」と似た二つのブロックで構成される場合があります。単純なBGMに多い形式で、昭和時代のポップスでは今で言うところのサビが存在しない2部形式で構成された楽曲もたくさんあります。

Aブロック+Bブロック
Aブロック+A’ブロック
Aブロック+A+Bブロック
Aブロック+B+Aブロック

ブロック内を分割することでAブロックの冒頭を回帰させたりBブロックの前半だけAブロックを用いたりと色々工夫出来ます。

3部形式

3部形式となると更に出来る事が増えていきます。

Aブロック+Bブロック+Cブロック
Aブロック+A’ブロック+Aブロック
Aブロック+A+Bブロック+Cブロック
Aブロック+Bブロック+C+Aブロック

大きくABAの回帰を持たすパターンやABCと異なる要素が3つ並ぶパターンがあります。Cをサビと考え、A-B-C(サビ)という楽曲の構成も出来ます。

複合2部形式、複合3部形式

複合2部形式と複合3部形式は今までの1つのブロック(8小節)を2つ以上集めてさらに大きな複合ブロックを作る方法です。

A+A’ – B+A
A+B – C+A

2つ以上のブロックを集めて作った大きな複合ブロックを二つ並べた形式です。2部形式とも呼びます。
展開部の省略されたソナタ形式とも言えます。

A+B+C – D+E – A+B+C
A+B – C+D – A+B

複合3部形式は3部形式と同様に回帰の概念があります。複合ブロックの大きさは自由です。

イントロとコーダ

どのような形式の楽曲でもイントロを作ることが出来ます。コーダはイタリアでは尾という意味で、曲の最後に追加される新しい部分です。ソナタ形式の多くにコーダは存在します。

イントロ-Aブロック-Bブロック-コーダ
イントロやコーダは自由に追加する事が出来ます。

作り方は自由であり、様々な作られ方があるので研究しましょう。

音楽事務所やゲームサウンドを専門とする事務所に自分の作品を送付するときはイントロの出来映えで決まってしまうことが多いので、イントロの作り込みは豪華にして気合いを入れましょう。

ロンド形式とは

ロンドは旋回の意味で、メインとなるブロックの周りを次々と新しいブロックが代わる代わる交代するスタイルです。「ABACADAEA」のような感じです。

A-B-A-C-Aが最も簡単なロンド形式
A-B-A-C-B-AがBブロックにも重きが置かれた発展的ロンド形式
ABA-C-ABAはABAの複合3部形式ともとれる複雑なロンド形式

変奏形式

変奏形式とは、特定のモチーフを色々な形に変えて演奏する技法です。

テーマ-第1変奏-第2変奏-第3変奏

いかに元のテーマを多彩に変奏していくかに重点が置かれています。変装回数に制限はなく、数回から数十回まで色々あります。

古くはバッハのゴルトベルク変奏曲からベートヴェンのエロイカ変奏曲、ディアベリ変奏曲モーツァルトのキラキラ星変奏曲メンデルスゾーンの厳格な変奏曲ブラームスのハイドンの主題による変奏曲フランクの交響的変奏曲ラフマニノフのショパンの主題による変奏曲など、クラシックには山ほど変奏曲があります。

テーマの美しさよりも、いかに変奏させるかに重きが置かれますそのまま作曲技法の上達に繋がるので作曲修行の一環としてもよく取り入れられています。これは無関係なメロディーをつなぐよりも、1つのテーマをあらゆる方法で展開させていく技術の方が難しいからです

ソナタ形式とフーガ形式

ソナタ形式とフーガ形式はすでに完成されたもので、現代では一部の愛好家や作曲の修行としての価値があります。BGM系の作曲でもクラシックの厳密なソナタ形式やフーガ形式が使われることはまれです。

ソナタ形式とフーガ形式を学ぶことで主題の展開、組み合わせ、転調、コーダ、各部分の有機的なつながり、曲の盛り上げ方、ブロックごとのつなげ方など学べることがあるので、それを学ぶために作ることが多いですね。BGMで使われるのはなんちゃってソナタやなんちゃってフーガという聴こえが耳に馴染みやすいものであることが多いです。直接的には厳格なソナタやフーガ形式を使わずとも、作ることで間接的にそこから得られるものはとても大きい形式といえます。

舞曲について

ワルツやマズルカ、メヌエット、ギャロップ、ジーク、ブーレ、サラバンド、シャコンヌなど舞曲について知っておくと役立ちます。バッハのフランス組曲やイギリス組曲でも多くの舞曲が扱われています。ショパンのワルツが人気ですが、ブラームスのハンガリー舞曲も有名です。

ポップスで用いる楽式について

ポップスで使われる形式は、基本的な歌モノ楽曲の作り方となります。

ほとんどの場合、2コーラス分のAメロ、Bメロ、サビという3つのブロックが骨格となり、これにイントロやエンディング、ソロパートが加わり3〜5分程度の楽曲が作られています。

イントロ-
1コーラス:-Aメロ-Bメロ-サビ-間奏-
2コーラス:-Aメロ-Bメロ-サビ-
-間奏(ソロ)-サビ-エンディング

90年代のバンドものには長いソロを持ち、間奏部分でのギターの技巧を見せるモノがありました。

サビ-イントロ-Aメロ-Bメロ-サビ→
サビからスタートする楽曲もあります。

1コーラス「Aメロ-Bメロ-サビ」
-間奏-
2コーラス「Bメロ-サビ」
2コーラス目のAメロを省略したパターン

1コーラス「A-A’-B-サビ」-間奏-2コーラス「A-B-サビ」
1コーラス目はAメロが2回で、2コーラス目のAメロが1回のパターン

AメロやBメロの平歌の部分をただ繰り返すだけではなく、色々な工夫をしています。そのまま繰り返すのでは芸が無いので、工夫を施します

1コーラス「A-サビ」-間奏-2コーラス「A-サビ」
昨今の歌モノはA-B-サビという構成が多いですが、Bメロを削るというアイデアもあります。

1コーラス「A-サビ」-間奏-2コーラス「A-B」
かつてはサビという概念がなかったといいます。最も盛り上がる最高音をサビに持ってくるのが現代の定石ですが、昔の曲は最高音がAメロにあるスタイルも。サビがない代わりに全体を朗々と歌い上げていました

-2コーラス「Bメロ-サビ」-間奏(ソロ)-ブリッジ(コーダ)-サビ
2コーラス目のサビの後にソロを経て、最後のサビに入るまでに新しい要素をいれることもあります。ブリッジ(コーダ)を挟むことで最後のサビの盛り上がりをより鮮明に効果的にします。

イントロ-1コーラス「A-B」-間奏-2コーラス「A-B」-間奏(ソロ)-サビ-エンディング
変則的な楽曲の中には、サビが最後まで出てこないというものもあります。その分AメロやBメロを魅力的にします。

まとめると、アレンジやコード進行で形式をより変化させ、盛り上がる部分や下がる部分を意図的に作り、曲全体を充実させる意識を持つ事が重要です。楽譜を取り寄せたりして、実際の楽曲を分析して楽式を自分のものとしていきましょう。

参考・出典

・「作曲基礎理論 〜専門学校のカリキュラムに基づいて〜」井原 恒平 (Amazon)
・「楽式論」石桁真礼生 (著) 音楽之友社 新版 (2011/2/1) (Amazon)
・「和声と楽式のアナリーゼ」 島岡 譲 (著) 音楽之友社 (1964/9/15) (Amazon)