今回はハーモニックマイナーについてより深く見ていきます。
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ハーモニックマイナーの特徴:あまり使われていないスケール。
ハーモニックマイナーはナチュラルマイナーキーのImM7とV7の部分で代わりに使われるぐらいで、それ以外の用法はあまり無いとされています。あまり使われない分、どう使い込むかで作曲者の個性が出てくるキーです。
また、ハーモニックマイナーはマイナー3種類の中で理論的な探求があまりなされていない分野です。ナチュラルマイナーやメロディックマイナーに関しては多くの理論書が扱っています。
一般的な用法はマイナーキーのVmの箇所をVにして使うことです。ハーモニックマイナーのVなのでHMP5B(ハーモニックマイナーパーフェクトフィフスビロウ)スケールを当てはめることになります。I度とV度に当たるコードでHMP5Bを使うのが一般的になります。一方でメロディックマイナースケールで見られるようなダイアトニックコードに対して固有のコードとコードスケールを用いることはまれになります。
ハーモニックマイナーは2種類の3全音(トライトーン)を持ちますが、一つはメジャーキーと同じものであり、ハーモニックマイナー固有の3全音は第4音と第7音の間にうまれる1種類だけとなります。
ハーモニックマイナーのダイアトニックコードを見ると、ImM7や♭IIIaugM7、V7、VIIdimなど個性的で強いマイナー感を演出するコードがあります。これらの個性的なコードと増2度を含む音程をいかにオシャレに、適切に使いこなすかがハーモニックマイナーでの作曲のポイントとなります。
ハーモニックマイナーのコードスケール
ハーモニックマイナースケールのコードスケールまとめです。
■度数別コードスケール
主音:ハーモニックマイナー
第2音:ロクリアン6スケール
第3音:アイオニアン#5
第4音:ドリアン#4
第5音:HMP5B
第6音:リディアン#2
第7音:スーパーロクリアン♭♭7
■コード別コードスケール
○mM7:ハーモニックマイナー
○m7:ドリアン#4
○augM7:アイオニアン#5
○M7:リディアン#2
○7sus4(♭9):ロクリアン6,HMP5B
○7(♭12,♭9):HMP5B
○m7-5:ロクリアン6
○dim:スーパーロクリアン♭♭7
基本的にこれらのコードスケールもチャーチモードと同じくハーモニックマイナースケールを転回させたものになります。つまり、元のハーモニックマイナースケールさえ覚えてしまえば開始音を決めてそこから転回させることですべて導き出せます。
また、ハーモニックマイナーのコードスケールは普段あまり使わないものが多いです。理由は増2度音程が存在しているからで、普通の楽曲では使いにくいコードスケールが多く、ハーモニックマイナースケールとHMP5Bスケール以外は普段聞いたことのないスケールが多くなります。従ってこの使いにくいコードスケールをどのようにスムーズに解決していけるかがハーモニックマイナーを上手に扱えるかどうかのポイントです。
ハーモニックマイナースケールの特徴:増2度音程を使いこなす
増2度音程はアラビア音楽やハンガリー音楽などのエスニック音楽をつくるのであれば積極的に使っていくべき音階ですが、そうではない楽曲で扱う場合は非常に難しい音程となります。
この増2度音程こそがハーモニックマイナーの最大の特徴でありますが、増2度音程を避ける過程でメロディックマイナーが発明された経緯があるように、この増2度は歌いにくく不自然なマイナスイメージがあるのも事実です。しかし、その先入観で増2度音程を食わず嫌いするのではなく、積極的に活用できないかを考えてみましょう。
増2度音程は必ずしも不自然に聞こえるわけではない。
必ずしも増2度だからといってアラビア風に聴こえたり、不自然で歌いにくくなるわけではありません。自分なりにどのコードスケールが適合するか、ハーモニックマイナーの増2度をかっこ良く響かせられないかを研究してみましょう。最初は勉強のつもりで色々と積極的に試してみましょう。
例えば、アルペジオの中に含ませたりすることで隠し味的にハーモニックマイナーの要素を含ませることも出来ます。増2度の違和感を薄めるには早いパッセージや細かな16分音符などのパッセージに入れることでも達成できます。
ハーモニックマイナースケールの使用例
・I度上では○mM7でハーモニックマイナースケールを使います。メロディックマイナースケールとコードは同じなので、明確に区別を付けたい場合は第6音と第7音を意識します。
・II度上では○m7-5で、ロクリアン6を使います。セカンダリードミナントやSDMなどの他の理論と関係を持たないため、明確なハーモニックマイナー感を演出するのに活用できます。ナチュラル6th(13th)テンションが特徴です。しかし、ロクリアン6スケールを意識しても、7thを入れないとハーモイックマイナー感が薄れてしまいます。7th(主音)と13th(導音)を同時に入れないと、ハーモニックマイナー特有のコードである事が示せません。
・♭III度上では○augM7コードを使います。コードスケールはアイオニアン#5スケールです。○augM7はトニックの代理コードとしての機能を持っているので、マイナーにおける♭III度のメジャー感を出しつつもハーモニックマイナー特有の雰囲気を演出できる貴重なコードです。3和音でaugとして使うことも多いです。
感覚としてはハーモニックマイナーをメジャーコードで使う感じになります。augは長3度の響きをもっているので、メジャーコードの響きに近くなり、それを同処理していくかがアイオニアン#5を使っていくポイントとなります。
・IV上では、○m7コードで、ドリアン#4スケールを使います。ドリアンの11thテンションが#11thに変化したものです。特徴音である#4(#11th)の音をどう取り扱っていくかが問題となります。その際第5音がないと特徴的なコードになりません(m7(#11)とm7-5が全く同じに聞こえてしまうため)。#11thと第5音を同時に使用することでハーモニックマイナー感を印象づける響きを作り出せますが、不協和感の強いボイシングとなるために、自分でどうすれば美しく響くのかの研究が必要不可欠となります。
・V度上では7(セブンス)コードを使います。コードスケールは○7(♭9,♭13)のテンションを持つHMP5Bスケールとなります。
・♭VI度上ではM7コードを使います。コードスケールはリディアン#2となり、#9thテンションを持ちます。メジャー感を持ちつつもハーモニックマイナーを感じさせるコードスケールです。リディアン#2の特徴音である#2(#9th)の音をコードボイシングで表現するには第3音と#9thを両方含むボイシングにする必要があります。第3音がないとmM7になってしまい、ハーモニックマイナー特有の感じが薄れます。
・VII度上ではdimコードを使います。コードスケールはスーパーロクリアン♭♭7ですが、ほとんど用いられる事は無く、HMP5Bスケールで代用することがほとんどです。スーパーロクリアン♭♭はノンコードトーンの多くが半音(短2度)でぶつかることと、♭13thの音をテンションで加えるとV7の転回形のように聞こえてしまうためほとんど用いられません。
多くの場合、ディミニッシュコードは長3度下のHMP5Bスケールか、ディミニッシュスケールで対応します。スーパーロクリアン♭♭7スケールの有用性は、ディミニッシュコード使用時に増2度音程を用いることでハーモニックマイナー感を演出できる点にあります。そのため増2度やハーモニックマイナーをコンセプトにした楽曲で無い限り、ディミニッシュコードをスーパーロクリアン♭♭スケールで処理することは極めてまれになります。ハーモニックマイナーの演出の一つとして活用しましょう。
ハーモニックマイナーは特徴音であるマイナーキーの導音とメロディでの増2度をいかにかっこ良く響かせられるかが重要です。隠し味的な使い方を含めて探求していきましょう。
ハーモニックマイナーのII-V(ツーファイブ)
ハーモニックマイナーのII-Vでは、IIにm7とm7-5を当てはめることが出来ます。m7ではドリアン、ドリアン♭2、ドリアン#4スケール、m7-5ではロクリアン、ロクリアン#2、ロクリアン6スケールをそれぞれ当てはめることが出来ます。
より実践的に増2度音程を使いこなす
増2度音程を持つばかりにハーモニックマイナーは避けられてきた音程です。その分、使う事で新しい可能性を開拓する一つの選択肢として考えられます。
コードネームとテンション構成が一致すればハーモニックマイナー出身のコードスケールを当てはめることが出来ます。ハーモニックマイナーは元々不協和が強いため、不協和の強いボイシングになりがちです。理論的にはアリでも、それが美しく響くかどうかは別問題というわけです。これを解決するにはダイアトニックコードにわずかなテンションで押さえた方が美しく響きます。ハーモニックマイナースケールは理論的な正しさを優先すると言うよりも、美しく響くかどうかを自分の経験の中で落とし込んだ方が良いでしょう。