転調は高度な作曲を行うための必須技法と言って良いでしょう。今回はそんな転調についての知識をまとめました。
目次 index
転調を使いこなすには
コード進行と同じく、転調も独自の雰囲気があります。転調を作曲で使いこなすには、どこにでも自由に転調し、いつでも戻ってこれる技術を習得する必要があります。
例えば○キーから■キーへ転調すると▲っぽい雰囲気になる効果や印象を自分の作曲に取り入れることで修得していきます。
そして、ちゃんと自分での言葉で転調における理論的な根拠を説明できるようになりましょう。
転調の種類
転調前の調を「先行調」
転調後の調を「後続調」
先行調の最後の和音を「離脱和音」
後続調の最後の和音を「転入和音」
と呼びます。
転調の原理
転調を学ぶにあたって、これまで学んだメジャースケールとマイナースケールそれぞれに通じている必要があります。自由自在にハーモニーをコントロールするには多くの調について修得している必要があります。
実際の楽曲では前後の調に一切つながりがないということはなく、転調部分に短いクッション部分を置いたり、理論的なII-V(ツーファイブ)のような因果関係があったり、前のキーに共通する音を利用したり、様々なテクニックがあります。
様々な転調パターンを身につけることは、様々なコード進行を体得するのと同じぐらい作曲家にとって財産となります。
転調には大きく「ピボットコード(共通コード)を用いた転調」と「ピボットコード(共通コード)を用いない転調」に大別されます。
転入和音と離脱和音のどちらかがピボットコードとなって前後のキーの橋渡しをしています。ピボットコードを伴わない転調は共通するコードがないため必然的に転調はぎこちないものになります。
調関係と転調について
近親調は元の調と非常に近い関係のため、非常に容易に転調することができます。つまりは、共通するダイアトニックコードが多いので、適当に転調したつもりでも自然に聴こえたり、理論的につながっている場合も多いです。その反面、転調したときのダイナミックな印象は少なくなります。
近親調に加えて、属調(V)の平行調と下属調(IV)の平行調も転調しやすい調です。
近親調への転調は中間にクッションを挟んだりドミナントモーションを使わなくても共通するダイアトニックコードや共通音から自然に転調できるタイプの転調といえます。
・ダイアトニックコードを主和音とするキーと同主調への転調
これは最も近い調関係のことで、そのダイアトニックコードを主和音とするキーへの転調のことです。「転調した感」は弱いですが、自然に転調を行うことが出来ます。5度圏で見ると、すぐ隣にあるキーのこと。平行調は調号が同じなので、簡単に転調することが出来ます。同主調も近親調なので弱い転調感ですが自然な転調をすることができます。
・同主短調のダイアトニックコードを主和音とするキーへの転調
これらはサブドミナントマイナーの理論と結びつけられるように、比較的近い関係にあります。同主短調という関係性の強いキーのダイアトニックコードへの転調です。
・同主長調のダイアトニックコードを主和音とするキーへの転調
短調からみて、同主長調のダイアトニックコードを主和音とした調への転調のことです。長調メインの中に短調のコードを取り入れるサブドミナントマイナーとは動きが逆ですが、理論的な裏付けは同主調つながりということだけになります。
・長調のマイナーダイアトニックコードを主和音とするキーの同主長調への転調
長調が主音の中での、マイナーダイアトニックコードを主和音とするキーの、さらにその同主長調への転調のことです。ちょっと遠い感じを受けることもあるので、実際に転調をする時はいきなり転調をするのではなく、途中にクッションを挟んだりして転調するようにします。
・短調のメジャーダイアトニックコードを主和音とするキーの同主短調への転調
短調主体で主音の各ダイアトニックコードのメジャーコードを主和音とするキーの更に同主短調への転調です。比較的遠いキーになりますが、同じダイアトニックの音を主音にしているというつながりを持っているためある程度近い関係があります。こちらも一気に転調すると断絶感が強いため、途中にクッションを挟んで段階的に転調することが多いです。逆にこの断絶感を活かしてダイナミックでドラマチックな効果を上げる楽曲もあります。
・「長調のマイナーダイアトニックコードを主和音とするキーの同主長調の平行調への転調
こちらはかなり遠い関係になります。まさに遠隔調といった関係です。全くの無関係ではなく、主調→ダイアトニックコードを主音とする調→同主長調→平行調というつながりがあります。共通するダイアトニックコードも少なく、直接転調すると非常に強い断絶感があるので、多くの場合はクッションを挟みます。もちろん挟まずその効果を逆に利用する場合もあります。
・「短調のメジャーダイアトニックコードを主和音とするキーの同主短調の平行調」
こちらもかなり遠い調域となりますが、主調→ダイアトニックコードを主音とする調→同主短調→平行調という関係があります。相当に遠い関係と言えます。
・上記よりも更に離れた調
真の意味での遠隔調はここまでに登場した転調方法よりもさらに関係の薄い調です。具体的には主音の半音上下の長調と裏コード音程の長調、それらの平行調です。裏コードを元にしたものは5度圏では正反対になりますが、真反対であるので逆に転調しやすいと感じる人もいます。主音の半音上下が最も遠い関係と言えるでしょう。
単純に#や♭の数の違いで考える。
転調するときに#や♭の変化の量が少なければ少ないほど断絶した感じは少なくなります。実際には離脱和音や転入和音のコード進行の影響など、一概に調号記号の変化量だけで考える事はできませんが、一つの目安として頭に入れておきましょう。
・転入和音と離脱和音で断絶感を和らげる事が出来る。
転調の最も重要なポイントは、「どこへ」転調するか?ではなく、「どうやって」転調するか?にあります。どういうコード進行の流れで転調したかによって、聴こえ方は全く変わってきます。特に重要なのが転入和音と離脱和音です。同じ転調でも自然にきこえたり、強い断絶感を持つのはこのコードの使い方によって変わってきます。
・セカンダリードミナントやサブドミナントマイナー、ナポリの和音を使うことで自然なつながりに。
遠くの調に転調するときに、あいだにセカンダリードミナントやSDM、ナポリの和音などでつなげることで滑らかに転調を行うことが出来ます。一見遠い調でもどうやって転調するかできこえ方は変わりますし、更に理論的なバックグラウンドがあれば思いのほか自然なつながりを出すことが出来ます。
コードスケールと出身キーの考え方がそのまま転調技術に活かせる。
コードスケールと出身キーの考え方はそのまま転調技術に応用することが出来ます。例えば、一時的転調のように元の調に戻らず、そのまま転調先の調につなげる事が出来ます。コードの出身キーさえ分かってしまえば、そのコードをきっかけにそのまま転調することが出来ます。
ピボットコードを用いた転調
転調の最も基本的な方法として、共通したピボットコードを用いた転調方法があります。これは、先行調と後続調との間の共通するコードを軸(ピボットコード)にして転調する方法です。クラシックでは定調的転調と呼ばれる方法です。
コードネームだけではコードスケール・出身キー・度数などを判別できない(=決定することが出来ない)ので、あらゆる転調の可能性を持っています。この転調はコードの持つ不確定性を利用した転調とも言えます。
メロディーを作るときのコードスケールは先行調に合わせたり、後続調に合わせたりします。ピボットコードによる転調ではメロディーに違和感を出さないために、両方のキーに共通する音のみでメロディーを作ると断絶感を和らげる事が出来ます。
ピボットコードは近い調同士でしか行う事が出来ません。遠い調になればなるほど共通するコードが少なくなってくるからです。これらのルールはぎこちない音を避けるためにあるので、あえて強い転調感を出したいときは共通しない音をメロディに使っても問題ありません。
ドミナントセブンスコードを利用した転調
ドミナントセブンスコード(V7)を使うことでどこへでも進むことができます。それぐらい汎用性が高い方法です。セカンダリードミナントでの転調が代表的で、仮のトニックと見立てたIを本物のトニックのIと見立ててしまえばそのままその調への転調となります。
なお、次のコードがメジャートライアド(3和音)であれば、前にドミナントセブンスコードを使うだけでどこへでも理論的に矛盾無く進むことが出来ます。
ドミナントセブンスコードを用いた転調は、ドミナントコードの可能性を拡大解釈し、12音すべてを根音とするメジャートライアドに対してドミナントコードが進行できるのです。
ドミナントセブンスを利用した転調の理論的裏付け
・同じ度数への進行
V7→Vは特に制限無く可能です。
・短2度上への進行(半音1個)
半音上への進行はV7→♭VIが短調における偽終止となり、長調ではSDMの代理を用いたV7→♭VIになります。
・長2度上への進行(半音2個)
ドミナントコードをメロディックマイナーのダイアトニックのIV7→Vの進行と考えるか、SDMの代理の♭VII7→Iと考える方法の二通りが考えられます。メロディックマイナーのIV度上に出来る○7を利用した転調方法です。IV7のコードはメロディックマイナー出身ということになり、コードスケールはリディアンドミナントを用いるのが一般的です。
・短3度上への進行(半音3個)
ドミナントコードを短調のダイアトニックのV7→♭VIIと解釈する方法と、メロディックマイナーのIV7→♭VIと解釈する方法があります。
・長3度上への進行(半音4個)
セカンダリードミナントの裏コード♭VI→Iへの進行と解釈できます。♭VIはセカンダリードミナントII→V、II7→V7でのIIの代理で、Vが省略された♭VI7→Iという進行になります。II→V(ツーファイブ)のファイブを省略し、更にツーの部分の代理コードを使っている訳です。
・完全4度上への進行(半音5個)
G7→Cのような完全4度上の進行は普通のドミナントモーションです。転調先のVと見なすことでどこにでもドミナントモーションをすることが出来ます。
・増4度上への進行(半音6個)
増4度、減5度の進行は裏コードへの進行と解釈できます。例えばG7の裏コードであるD♭7がありますが、これを裏コードではなく転調先のV7とみなすことでKeyG♭に転調することが出来ます。つまり裏コードを裏ではなくそのまま表にしてしまう方法です。すべてのドミナントコードでできるので、転調先をコントロールできます。
・完全5度上への進行(半音7個)
メロディックマイナーのIV7→Iで解釈するのと、SDM代理の♭VII→IVと解釈する方法の二通りがあります。メロディックマイナーのIV7→Iはピカルディーの3度の考え方を応用しています。
■ピカルディーの3度とは?
クラシック音楽ではピカルディーの3度という終止があって、短調の終止はImではなく長調のIで終わらせる考えがあります。そこでメロディックマイナーのIV7からIに行くときもImではなくIを使う、といった感じです。マイナートライアドを経由せずにメジャーキーに転調可能です。A7→EのEメジャーなど
関連記事→ピカルディ終止(ピカルディの三度)とは マイナー調の最後の主和音がメジャーに変化したもの
・短6度上への進行(半音8個)
短調のV7→♭IIIへの進行と考えることができます。クラシックでは偽終止とならないものの、ポピュラー理論では偽終止です。
・長6度上への進行(半音9個)
SDM(サブドミナントマイナー)の代理の♭VII7→Vと考える事が出来ます。
・短7度上(長2度下)への進行(半音10個)
長調のV7→IVと考える方法と、メロディックマイナーのダイアトニックコードのIV7→♭IIIと考える方法、そしてSDM代理の♭VII→♭VIと考える方法の3通りの方法があります。
・長7度上(短2度下)への進行(半音11個)
V7を転調先の裏コードにしたドミナントモーションと考える事が出来ます。
サブドミナントマイナー(SDM)とその代理コードを用いた転調
サブドミナントマイナー(SDM)とその代理コードをつかった転調は同主短調や、近い調の短調に転調するときに適しています。最も一般的なのは同主短調への転調です。とても使いやすく、多くの場面で王道とされる使い方です。
SDMとその代理コードをピボットコードにして転調の足がかりとすることもできます。○m7というコードは多くのスケールに見られるため、サブドミナントマイナーのIVm7として、ピボットコードとして扱うことでいろいろな調へ転調できます。
半音階を用いた転調
半音階というつながりによってのみ転調がなされ、理論的な説明がつかない転調を半音階的転調と呼びます。ただの半音でずれただけの転調です。一見すると無理矢理な進行ですが、半音進行なので非常に滑らかに転調することが出来ます。離脱和音と転入和音に対して、半音転調以外の説明がつかない転調はたくさん存在します。
ナポリの和音を用いた転調
ナポリの和音は半音上に○M7を持ってくることで、ナポリの6の形で使われます。ただの○M7というコードになってしまわないように、ナポリの和音の特性を理解して使います。
○M7の形が基本の型で、4和音で用いることで流れの良い転調を作り出すことが出来ます。これを用いることで、各ダイアトニックを主音とした長調と短調への転調が可能となります。ダイアトニック以外の音を主音とするキーへの転調が難しいことが、ナポリを用いた転調の限界となります。
関連記事→ナポリの和音(Neapolitan chord)とは
メロディックマイナーを用いた転調
IVのドミナントコードやVI度上の○m7-5がメロディックマイナー特有のコードです。ピボットコードなど、同じコードシンボルを持つ違う度数のキーに転調できます。特にIVの上にドミナントコードが出来るのはメロディックマイナーだけなので、IV7とV7をピボットコードとして使えば簡単に転調できます。
偽終止を用いた転調
ドミナントコードがI以外のトニックコードに進むことを偽終止といいますが、それを応用した転調です。
ディミニッシュコード(dim)を用いた転調
ディミニッシュコードの正体は○7(♭9)の根音を省略したドミナントコードです。また、一つのディミニッシュコードは同時に4つのキーに属しています。この複数のキーに属していることを利用して、単3度関係の調へ転調することができます。ディミニッシュコードが出来た時点で道が4つあり、いつでも道を変えて違うキーに進むことが出来ます。
コードスケールを利用した転調
メロディーの部分のコードスケールを変更する一時的転調を、一時的ではなくそのまま借りてきたキーに転調する使い方もできます。コードスケールが、それぞれ何番目の音から並べ直した音かを理解しているとスムーズに転調が出来ます。(コードスケールの出身キーを利用した転調)
変化和音を用いた転調
変化和音とは、元々存在するコードのコード構成音の一部を変化させるテクニックです。オルタードコードがこれに該当します。クラシックの和声学では、テンションではなくコードトーン自体を変化させるテクニックが使われます。
コードトーンが変わればコードネームも変わりますが、理論的な根拠もなくコードトーンを変化させた例がナポリの和音です。最も多いのが第5音の変化で、ボサノバのマイナー化のテクニックは第3音の変化に相当し、クリシェなどで多用される音の変化は第7音の変化と解釈することが出来ます。コードネームが変われば所属するキーも変わるので、それを利用し転調します。
クラシックの和声学における変化和音はV7の第5音が上下半音ずつ変化するものと、短調のIIm7-5の根音が半音下に変化するナポリの和音が基本的なものとなります。コードトーンを自由に変化させることで所属するキーも変えてしまい、それを転調のきっかけにするのが変化和音での転調のポイントです。
平行和音を用いた転調
フュージョンなどでよく用いられる平行和音を使った転調テクニックです。平行和音とは和音の構成音程そのままで進行することです。パラレルモーションともいいます。コードの種類を変えずに進行することです。
断絶感が強く、一切の予備なしに突然キーが変わるので、多くの場合転調目的というよりかはアクセント的にリズムにキレをもたらすために用いられます。使いどころがハマるとカッコイイ転調になります。
アンリ・シャラン(Henri Challan)的な転調
日本ではクラシックの和声学の修得カリキュラムとして赤、黄色、青の3冊の芸大和声が終わるともっと実践的な内容に取り組むため、各クラシック作曲家の和声法の分析や日本の著名な先生方が作った和声課題を勉強したりしますが、その中でフランスのアンリ・シャラン(Henri Challan)やポールフォーシェなどの(Paul Fauchet)などの和声課題もよく使われるそうです。
シャランには独創的な転調が多く、「1音か2音の共通音が離脱和音と転入和音にあるなら、例え遠隔調であってもそれを軸にして転調してしまう方法」といえます。共通音を頼りに、転調の断絶感をやわらげつつ、遠隔調への転調を可能としています。1音や2音が保続音となり、遠隔調に転調するのは後の近代フランスの作曲家に多く見られます。この軸となる保続音は伸ばされて先行調と後続調の橋渡しの役割を担います。
異名同音(エンハーモニック)を用いた転調
#や♭が多いキーへの転調は不具合が出てくるため、それを解決するために異名同音(エンハーモニック)を使います。エンハーモニック転換を利用した転調です。例えばC#の属調はG#メジャーですが、G#は調号がありません(#の調号の#は最大7つであり、書けない)。そのためA♭メジャーにエンハーモニック転換されます。
作曲家によっては後期ロマン派のクラシック音楽において臨時記号のダブルシャープやダブルフラットで書かれることがあります。ダブルシャープやダブルフラットがつく調は調号が存在しないためエンハーモニック変換されるのです。
#系の和音を♭系の和音、もしくはその逆も同様に、一方のコードからは発想できないキーに転調するアイデアが持てます。E♭をD#に読み替えれば♭系のキーに加えて#系のキーへの転調が見えてくるのです。F=E#、B=C♭といったようにエンハーモニック転調で導き出される転調もあります。
突然転調
何の理論的なつながりもなく、準備や予備もない状態で突然転調することです。この中には同じコード進行をDAWソフトでコピーペーストしてずらすような転調も含まれます。誰にでも出来る転調ですが、ポピュラー音楽ではドラマチックな効果を求め、とても多用される転調方法になっています。イントロ、Aメロ、Bメロとサビ、最後のサビの繰り返しなどブロック単位でこれが行われることが多いです。強い断絶感を利用してドラマチックな効果をもたらします。