【代理和音】サブドミナントマイナーと近親調(同主調)について

今回は代理コードの一つ、サブドミナントマイナーについて見ていきます。サブドミナントマイナーは裏コードと同じく代理和音の一種です。

サブドミナントマイナーとは

サブドミナントマイナー(Sub Dominant minor, SDM)とは、同じ主音を持つマイナースケールのダイアトニックコードからサブドミナントを借用したものです。(ダイアトニックコードを確認したい人は資料ページをご参考ください。)

メジャーキーの時に同じ主音を持つマイナーキーのダイアトニックコードの中からサブドミナントの機能を持つコードを一時的に借りてくることで、メジャーキーの中にマイナーキーの響きを含ませるこどでコード進行を柔らかくしたり、盛り上げたりすることができます。

Key=CならCmのマイナースケールのサブドミナントを借用します。ナチュラルマイナーでもハーモニックマイナーでもかまいませんが、基本的にはナチュラルマイナーを使います。

近親調を知る

サブドミナントマイナーは近親調という概念を知る必要があります。近親調は、近い関係にある調のことです。

近親調の種類は、主音から (例:Cメジャー)
完全5度上のドミナントを主音に始まる調を属調(Gメジャー)
完全5度下のサブドミナントを主音に始まる調を下属調(Fメジャー)
主音と同じ主音を持つマイナーキーを同主調(Cマイナー)
同じ響きを持つ調号も全く同じで、短3度の関係にある調を平行調(Aマイナー)

と呼びます。サブドミナントマイナーにおいては同主調が重要で、メジャーキーの同主調(同主短調)が重要となります。また、サブドミナントマイナーは、メジャーキーでしか使えないテクニックです。Cメジャーに対して、Cマイナーキーからサブドミナントの機能を持つダイアトニックコードを借りるのです。

同主調とは

同じルート音を主音に持つメジャーとマイナーの関係同士にある調を同主調といいます。同主調は、長調であれば同主長調、短調であれば同主短調と呼ぶこともあります。

Cナチュラルマイナースケールのサブドミナント「Dm(-5)、Fm、A♭」をCメジャーセブンスコードのサブドミナントの代理として入れ替えて使うのがサブドミナントマイナーです。特にIVmが使われる事が多いです。

サブドミナントは同主短調のサブドミナント機能のコードをそのまま借りてくるだけなので、特に難しくはありません。ちなみにポピュラー理論において、唯一IVmM7のみがダイアトニックに存在しないコードで、サブドミナントマイナー固有のコードとされています。クラシックではサブドミナントマイナーを準固有和音といいます(クラシック理論ではIVmM7は除外されている)。

サブドミナントマイナーの代理コードとは

サブドミナントマイナーにも代理コードがあります。

同主短調のサブドミナントの代理コードをそのままサブドミナントマイナーの代理コードとして扱います。マイナーキーにおいてはIIm-5,♭VI、♭VIIの和音がサブドミナントの機能を持つ代理コードです。これをサブドミナントマイナーの代理コードとしてサブドミナントマイナーと同様に用いる事が出来ます。

サブドミナントマイナーのポイントとなる音はメジャーキーの主音から見た「m6」の音です。CでいえばA♭の音で、それを含むコードがサブドミナントマイナーの代理コードとしての性質を持ちます。

代理コードは元のコードとの共通音が多いという特徴を持ちます。よって、ルートを省略するとFmと同じになるD♭M7やDm(-5)になるB♭7も代理コードとして扱えます。

極端に言ってしまえばメジャー主音から見て、スケールの6番目の音が「m6」になっていればサブドミナントマイナーの代理コードに成り得ます。元のメジャーキーから外れた音を使った和音を使っても良いのですが、なるべく元のキーに近いスケール音で構成した方がそれらしくなります。

サブドミナントマイナーのメロディ

サブドミナントマイナーは同主調のマイナースケールから借りたコードなので、使えるメロディも同主調のマイナースケールになります。

気をつけるのは、「m6」を含むサブドミナントマイナーの代理コードとして配置した場合で、その場合は元の同主調のマイナースケールを意識し、そこから外れた音を調整するようにして使うとサブドミナントマイナーらしい響きになります。

サブドミナントマイナーの使い方

サブドミナントマイナーはメジャーキーのサブドミナントの代理として、元のコード進行のサブドミナントの部分をサブドミナントマイナーで置き換える感覚で使いましょう。サブドミナントとドミナントの中間にしたような響きが特徴です(サブドミナントよりも勢いづく感じ)。

サブドミナントのコードをF→FmのようにF(IV)のところをFm(IVm)にしたりするのが一般的な使い方です。なお、Fm→Fのようにサブドミナントマイナーからサブドミナントに進む進行はあまり見られません。Key=Cに置けるサブドナントマイナーのFmはCマイナーキー出身なのでその部分だけCマイナーの響きを持ってくることが出来ます。実際にサブドミナントマイナーを使ってみて、それぞれ自分なりの印象を持つようにしましょう。

応用と発展:サブドミナントマイナーのコードスケールについて

サブドミナントマイナーでは基本的に同主短調のコードスケールをそのまま使いつつ、元のキーに合わせられるところは合わせていくスタンスをとります。以下サブドミナントマイナーのコード別にどのスケールを使うのかについてのまとめです。

・IVm,IVm7,IVm6→ドリアンスケール(マイナーキーのドリアンなので第6音がアボイドとならずに使える。完全5度上のマイナーキー)

・IVm,IVmM7→メロディックマイナースケール(同じ主音のメロディックマイナー。)
IVmでもIVmM7の第7音が省略されていると考えてメロディックマイナースケールを使うことが出来ます。M7の音は元のキーの第3音でメジャーとマイナーを決定づける音で言うところのメジャー感を演出できる音なので、メジャー的感覚を活かしてサブドミナントマイナーを使いたいときに重宝します。

・IIm5,IIm7-5→ロクリアン#2スケール (短3度上のメロディックマイナー)
IIm5,IIm7-5はロクリアン#2スケールを使います。ロクリアンスケールの2番目の音を半音あげたものがロクリアン#2スケールです。またこの2番目の音は元のキーのトニックコードの第3音なので、元々ロクリアンの音を元のキーに近づけるために第2音が半音上げられた事情があります。一応普通のロクリアンスケールもつかえますが、マイナーキーでのIIm7-5となり、強くマイナーキーとしての意味合いがでてしまうため、あくまで元のメジャーキーに近づけたロクリアン#2の方が自然な響きをもたらします。

・♭VI、♭VIM7、♭VI6→リディアンスケール(長3度上のマイナーキー)
♭VI、♭VIM7、♭VI6はリディアンスケールを使います。リディアンはアボイドがないために使いやすいスケールですが、♭VIの場合は根音の♭VI自体が既にダイアトニックの音ではないので、元のキーから離れた感じが強い響きを持つコードです。しかしそれを利用して強いアクセントを出したいときに重宝するコードと言えます。元のキーとのバランスをとりたいときは、元のキーとの共通である#11th,13th,M7を積極的に使うことでバランスをとることが出来ます。アボイドがないリディアンスケールならではのテンション使い放題の性質を活かすわけです。

・♭VII、♭VII7→リディアンドミナント(完全5度上のメロディックマイナー)
♭VII、♭VII7の場合は元のキーに近づけた結果として、リディアンドミナントスケールを用います。♭VIと同様根音がダイアトニックコード以外の音で、調から外れた感じが強いコードです。リディアンドミナントにもアボイドがないので、元のキーとの共通音である9th,#11th,13thなどのテンションで元のキーとのバランスをとります。

■サブドミナントマイナーで使うコードスケールのまとめ
最後にサブドミナントマイナーに使えるコードとコードスケールをまとめます。

IVm、IVm7, IVm6 ドリアンスケール
IVm、IVmM7 メロディックマイナースケール

サブドミナントの代理コード
IIm-5, IIm7-5 ロクリアン#2スケール
♭VI、♭VIM7、♭VI6 リディアンスケール
♭VII、♭VII7 リディアンドミナントスケール

基本的には元のキーに最も音の構成が近いコードスケールを当てはめます。ただ、これも絶対的なものではなく、転調の時にあえて元のキーから大きく離れたコードスケールを使う場合や、調の揺れの幅を大きく出したいときには別のコードスケールを使っても大丈夫です。ただ、揺れ幅を大きくするのは発展的な内容であり、微妙でかすかな調の響きの揺れを自由自在にコントロールするのは相応の熟達と時間がかかります。まずは基本に忠実にたくさんサブドミナントマイナーを使った作品を作り、それがどう聴覚的印象に影響するのか体得していきましょう。