十二音技法を用いた作曲技法

十二音技法を用いた作曲技法 Photo of Arnold Schoenberg in Los Angeles, believed to be taken in 1948. Source of photo is the Schoenberg Archives at USC. The archive grants permission to publish this image, provided that the photographer is credited. Florence Homolka
十二音技法を体系化したアルノルト・シェーンベルク

今回は12音技法を用いた作曲技法についてまとめます。

十二音技法を用いた作曲技法とは

十二音技法は無調性音楽を代表する作曲手法です。アルノルト・シェーンベルク(Arnold Schönberg)によって提唱されたこの技法は以後100年間のクラシック音楽に大きな影響を与えました。

シェーンベルクが十二音技法の曲を書いた当初、ドイツ国民から「音楽の破壊者」と罵られたといいます。彼自身は十二音の平均律での作曲だからバッハの後継者だと言っていたようでしたが、それだけ彼の音楽のインパクトは大きかったのです。

調性を捨てるための理論ですが、明確な理論をバックボーンとしており、それが作曲を支えています。一見すると意味がわからない気味が悪い音楽ですが、でたらめになんとなく作られた楽曲ではありません。十二音技法などの長調短調以外の作曲法は音楽のルールを捨てたのではなく、新しいルールに乗り換えたものだといえます

十二音技法の好例を知るには、新ウィーン楽派のシェーンベルク、ベルク、ウェーベルンの作品が参考曲になります。図書館やYoutubeなどでチェックするのが良いでしょう。

十二音技法発生の経緯

シェーンベルクが十二音技法を確立する前から十二音技法に近い作品はたくさんありました。リスト、ブラームス、フランク、ワーグナーなど調性崩壊寸前の作曲家の曲の中には、極限まで半音階化された楽曲があります。調性が崩壊するきっかけは、音楽語法が時代と共に高度・複雑化し、極端に半音階的となって行き詰まってしまったからです。

時代が下るにつれ、どんどん付加音がつくようになり、3和音→4和音→ナチュラルテンション→オルタードテンションと複雑で豊かな響きを扱うようになります。バッハの時代は基本3和音で、4和音になるのはドミナントセブンスコードだけでした。時代が下り、トニックやサブドミナントにもセブンスの和音が使われるようになりました。そしてテンションが加えられ、オルタードコードが使われ始めます。オルタードでは調性的にかなりアウトな外れた音を含みますが、ギリギリ調性の中にコードネームで示せる範囲には留まっていました。しかし、これ以上音を複雑にしようとするならば、調性を脱却するしか方法がありません

最終的に12音すべてを使い果たした上で音の種類を増やして響きをより豊かにするという発想は打ち止めになり、半音階が極端に進んだのはあくまで調性という概念の枠での話であり、さらに先に進むために調性をなくしてしまう方向に考え始めます。

これが十二音すべてを使うシェーンベルクの提唱した十二音技法になります。13種類目の音を作ろうと微分音も提唱され、4分音ピアノなども考案されましたが、それらは廃れており事実上現時点での音楽の限界点となっています。

十二音技法 音列とその変形

十二音技法における作曲では、音列を作るところからスタートします。音列がすべての元となり、十二音技法の楽曲が出来ています。音列はフランス語でセリー(serie)といい、十二音技法がさらに発達した作曲技法では「セリエル音楽」、「トータルセリエリズム」などと呼ばれています。

コードやコード進行を見つけることが出来ないのが一目瞭然で、聴いた感じとしても調性を感じることが出来ません。何も知らなければでたらめに作られているように見えますが、実際にはあらかじめ用意された音列に基づき、極めてシステム的に統一感のある原理で構築されています

音列の作り方

まず12種類の音に1つずつ番号を振ります。順番に並べ得られた音同士の関係をメモしておきます。音列の作り方に特に制限はないものの(自由に選択できる)、調性を埋没させることが目的なので、コードのアルペジオを連想させるような音列は避けるべきです。(駄目ではないが、調性を消す目的から外れてしまう)

ベルクのヴァイオリン協奏曲のように、12音技法の楽曲ながらも調性を喚起させる音列配置をすることで情緒的な雰囲気を出すことが出来ますが、あくまで12音技法の中では例外になります。

基本となる音列が完成したら、逆行形、反行形、逆反行形、移高形を作ります。
逆行形:基本音列を後ろから並び替えたものです。単純に後ろから順に並べ替えるだけです。
反行形:基本音列と音程関係が反対になったものです。音程関係を覚えておく必要があるのはこのときのためです。単純に上下の音程を入れ替えるのですが、厳密に音程を守るとダブル#やダブル♭が出てしまうので、その時は異名同音で読み替えます。(シの♭♭はラとする、などです。)
逆反行形:反行形をさらに後ろから順に並び替えたものです。
移高形:音程関係をそのままで、高さを変えたものです。移高は12回行うことが出来、音程が複雑になる場合は異名同音でも可能です。移高は逆行、反行、逆反行にも行えるので、48種類の音列が出来ます。この48の音列が十二音技法の楽曲の基礎となります。最初の音列でミスをすると、残り全部間違ってしまうので何度も見直します。

絶対的なルールとして必ず音列の順番通りに音を使わなければいけません。どちらかの音を多めに使うなどするとそのわずかな偏りで音が調性に傾いてしまいます12音の音列すべてを平等に扱う事が最大のテーマです。厳密に守られた十二音技法で完全に調性は消え去ります。

12音技法の和音の作り方

和音の作り方も声部の流れを活かして柔軟にすることもありますが、音列の順番通りに2~5つまでの音を選び和音を作ります。音列の順番は必ず守ります。12まで行ったら1に戻ります。コードネームを考える必要は無く、むしろCやFといった普通の和音にならないようにします。多少は調整っぽい響きを加えることで不協和を緩和することもありますが、やり過ぎると無調には聞こえなくなります。

同じ音でもボイシング次第で響きをきれいにしたり濁らせたりすることが出来るのは調性音楽と同じです。基本的に元の音列の音程関係に左右されるので、元の音列に増音程や短2度が多いと無調の強い暗い和音となり、長3や短3、完全4、5度が多いと普通の和音みたいになります。

十二音技法作曲のコツ

十二音技法はどれを聴いても無調な感じがするため、誰が作っても差はでにくいです。どのように優劣が決まるのかというと、音列以外の要素であるリズム、メロディー、ハーモニー、音色、音高、様式美に基づく楽曲形式などが基本です。この中のハーモニーはかなり可能性が限られ、ボイシング技術で変化させることが出来ますが、基本的には無調の不協和の強い響きの曲調になります。

メロディー、リズム、楽器の音色や演奏法、組み合わせや音量、音の高低への工夫が十二音技法作曲の最大のポイントです。

特に工夫がなされるのがリズムです。無調性の楽曲はリズムが複雑な楽曲が多いです。ハーモニーに工夫が出来ない分、リズムで工夫がなされることが多いですね。

ペダリングや極端に高い音、低い音、クレッシェンドやアッチェレランドなど音の強弱・高低、音色などハーモニー以外での工夫でオリジナリティを出していきます。

音列の制約によりハーモニーに工夫が出来ない分、それ以外の部分に対する工夫が必要になるのです。ハーモニー以外の工夫をしなければ中身の薄い曲になってしまいます。

誰がどう作っても雰囲気はホラー・恐怖・疑心暗鬼などのBGMになるので、それらの用途が求められる時にはうってつけの作曲技法です。十二音技法は訓練としてもハーモニーに頼らず音楽的に面白い曲が書けるかの練習になるので、同じくコード進行が制限されるテクノ音楽にも応用できます。

参考・出典

・「作曲基礎理論 〜専門学校のカリキュラムに基づいて〜」井原 恒平 (Amazon)
十二音技法 Wikipedia