【詳細解説】コードスケールとは

本格的なジャズやR&Bを作るには、コードスケールの知識が必要不可欠となります。また、コードスケールを覚えることでどんなコードにも状況に応じて転調やメロディを当てはめることができ、作曲上級者には欠かせない知識となります。

コードスケールとは

ダイアトニックコード上、つまり音階上の音だけで音楽を作れるのであれば問題ないですが、どうしても単調で面白みがない曲になってしまいます。実際に子供向けの童謡や民謡にはそのようにして作られてる楽曲は多いです。

コードスケールの基本はコード一つにつき、どのスケール(音階)がつくのかを決定するものです。コードごとにスケールが伴うという考え方です。

コードスケールの考え方を実際の楽曲に応用することで一時的に転調させたり、アヴォイドで使えなかった音がメロディーに組み込めたり、非常に柔軟な音楽構成が可能となります。#や♭といった変化記号でそのスケールの範囲外の音を加えることでおしゃれで豪華な豊かな聴覚的豊かさを演出することが出来ます。ピンポイントに#や♭で音を変化させてカッコ良くさせることができます。

日本でのポピュラー理論は俗に言うアメリカのバークリー音楽院のメソッドを輸入しているので、アヴェイラブルノートスケールと呼ぶことがあります。もしくはチャーチモードや単にモードと呼ばれています。

コードに含まれている音をコードトーンといいます。コードに対してのメロディをコードトーンだけで構成するだけで済めば問題は無いのですが、コードトーン以外の音をどう使うかが問題になってきます。コードスケールはそのコードを使用したときに、使用可能な音を明確にするための理論なのです。

■例:CM7の場合
Cメジャーキー(ドレミファソラシド)におけるCM7を例に出します。

・CM7はドミソシで成り立っています。これをコードトーンと言います。
・それ以外のレファラはノンコードトーンと言います。
・そしてノンコードトーンはテンションノートとアボイドノートに分類されます。

テンションノート(テンション)は良い意味で緊張感を与えてくれる音です。コードにそのまま追加することでテンションコードを作ったり、メロディではコードトーンと同じように使うことが出来ます。

アボイドノート(アボイド、アヴォイド、AV)は避けるべき音の事で、コードの中やメロディで使うにも不協和感が強いために注意するべき音のことです。しかし全く使わないのでは無く、上手に使うことで逆にメロディや展開を美しくする重要な音です。

CM7ではミに対しての「ファ」がアボイドに当たります。半音1個の短9度の関係であり、音楽の世界で最も汚い音階です。すべてのアボイドはこの短9度を作り出してしまう為にアボイドとされています。アボイドは音痴で外れた厳しい音と言えます。

アボイドを使う時は、伸ばしたりトップノート(最高音)といった目立つ位置で使わないようにします。
CM7の場合は「ミ」と「ファ」は近くでぶつけず、転回させたりして離すようにします。

コードスケールを使えばアヴォイドノートになってしまう音をテンションにしたり、より自由に音を扱えるようになります

コードスケールは量が多く大変ですが、実質的にメジャーとマイナースケールの3種をしっかり覚えていればマスターできます。

ダイアトニックコードスケールとは

メジャーキーのコードスケールの名称は主に中世の教会旋法(チャーチモード)から取られています。ポピュラー理論のコードスケールの概念は教会旋法の考え方をそのまま踏襲しているのです。

メジャーキーのコードスケールを簡単に見つけ出す方法は、メジャースケールのそれぞれの音を並び替えればすぐに求められます

メジャースケールの○番目からスタートすることでそれぞれ以下のコードスケール音階が求められます
主音アイオニアン(イオニアン) / Ionian(メジャースケールと同一)
第2音ドリアン / Dorian
第3音フリジアン / Phrygian
第4音リディアン / Lydian
第5音ミクソリディアン / Mixo-Lydian
第6音エオリアン / Aeorian
第7音ロクリアン / Loclian

これまで馴染んでいたメジャースケールはアイオニアンスケールと同一です。

例えばDドリアンはDが2番目にくるメジャースケールですので、「レミファソラシドレ」となります。ドリアンは2度のスケールなので、Dが2度になるメジャースケールは何なのかを考えます。よってCメジャースケールをDから始めたスケールがD-ドリアンになります。

BロクリアンはBが7番目にくるメジャースケールですので「シドレミファソラシ」となります。Bが7番目に来るコードスケールはCなのでCをBから始めたスケールとなります。

頭文字をとって「アドフリミエロ」と呪文にして順番も含め丸暗記しましょう。

アイオニアンとエオリアンは開始音が違うだけで構成音は同じです。メジャースケールをすべて覚えていればすべて求めることができます。そして、それぞれどの音がテンションノート、アヴォイドノートとなるかが変わってきます。

■メジャースケールのコードスケールのアボイド・テンション・6th一覧
アイオニアン 9th AV 6th
ドリアン 9th 11th AV
フリジアン AV 11th AV
リディアン 9th #11th 6th
ミクソリディアン 9th AV 13th
エオリアン 9th 11th AV
ロクリアン AV 11th ♭13th

テンションとアボイドの見分け方は、ノンコードトーンからみて二度下の音が全音ならテンション半音ならアボイドという風に考えると簡単に見分けることが出来ます。唯一、メジャーキーのドリアンの第6音だけは例外で、2度下のコードトーンとの関係が全音ですがアボイドとなります。(マイナーキーのドリアンなら6thになる)

コードが決まると必ずコードスケールもセットで決まります。そうするとそのコード内で使えるメロディやベース、テンションやアボイドなど作曲における曖昧さを取り除くことが出来ます。ダイアトニックコード以外の音が説得力を持って意図的に使えるようになるのです。

マイナーキーのダイアトニックコードスケール

ナチュラルマイナーの第○番目の音で始まるスケールの転回がマイナーキーのコードスケールとなります。ナチュラルマイナーはメジャーキーの6番目の音から並び替えただけとも言えますね。


■ナチュラルマイナーのコードスケール
主音エオリアン(ナチュラルマイナースケールと同一)
第2音ロクリアン
第3音アイオニアン(メジャースケールと同じ)
第4音ドリアン
第5音フリジアン
第6音リディアン
第7音ミクソリディアン

エロアドフリミ」と呪文のように覚えてしまうのもありですが、考え方としてメジャースケールの「アドフリミエロ」とは開始時点が違うだけともいえます。エオリアンとアイオニアンはスタートする音が違うだけで構成音は同一です

以下はマイナースケールのテンションやアボイドについてのまとめです。

■マイナースケールのコードスケールのアボイド・テンション・6th一覧
エオリアン 9th 11th AV
ロクリアン AV 11th ♭13th
アイオニアン 9th AV 6th
ドリアン 9th 11th 6th
フリジアン AV 11th AV
リディアン 9th #11th 6th
ミクソリディアン 9th AV 13th

ドリアンの第6音の扱いが6thになっていること以外はメジャースケールと同一です。これは、メジャースケールのドリアンの第3音と第6音の間に全3音、トライトーン音程ができてしまい、本来サブドミナントの和音がドミナントのように聞こえてしまうからです。Cメジャーではファとシの音をもつコードがドミナントの資格を持つ音となります。DドリアンであるDmのコード上にテンションとして「シ」の音を認めてしまうと、Cメジャーキーのサブドミナントとして機能していたDmに「ファ」と「シ」のドミナントのような響きを持たせてしまいます。このような理由からメジャーキーのドリアンの第6音はアボイドとされています。(機能が曖昧になるからアボイド扱いなので、わざと機能を曖昧にしたいときは活用されることもあります。)

マイナーキーでは6thとして扱えるのは、マイナーキーで構築されるドリアン、Aマイナースケールに構築されるDmにおいてはソ#とレが全3音のトライトーンとなり、それを含むE7がドミナントの資格を持つからで、DmはファとシのCメジャーキーにおける全3音を持つものの、マイナースケールの場の力場関係においてドミナントコードと関係ないからです。

ハーモニックマイナーとメロディックマイナーのコードスケール

ハーモニックマイナーとメロディックマイナーで使えるコードスケールはナチュラルマイナーと同一ですが、新しく発生したコードについてはそれぞれ新しくコードスケールを割り当てなくてはいけません。ここではハーモニックマイナースケールとメロディックマイナースケールで割り当てるコードスケールを扱います。

HMP5B/Harmonic Minor scale Perfect 5th Below

HMP5B(ハーモニックマイナーパーフェクトフィフスビロウ)スケールは、V,V7のコードに対して割り当てることができるコードです。
名前の由来は「5度下のハーモニックマイナースケール」、その名の通りハーモニックマイナー出身のスケールで、ハーモニックマイナーの5番目の音を開始音にして並び替えたスケールになります。

例えば、EHMP5BはAハーモニックマイナースケールを5番目のミから並び替えたスケールになります(ミファソ#ラシドレミ)。主音から考えればEから5度下のAハーモニックマイナースケールをEから並び替えたスケールとも言えます。

また、VIIm-5,VIIdimの和音に根音VIIの長3度下のVのHMP5Bを割り当てることができます。VIIの根音を省略したと考えます。この場合はV7の代理和音として扱うためよりドミナント感を強調できます。ディミニッシュスケールのように調性感が失われることはありません。クラシックの和声学ではV7の♭9テンション和音の根音省略形として登場します。

HMP5Bのノンコードトーンの扱い
♭9th, AV, ♭13th
♭9thと♭13thのテンションが2度下のコードトーンと半音関係であってもオルタードテンションというテンション扱いとなります。

ロクリアン#2

VIm-5,VIm7-5に対してはロクリアン#2スケールを割り当てることができます。ロクリアン#2スケールは文字通りロクリアンの2番目の音が半音上がっているスケールですが、メロディックマイナー出身のスケールでありIのメロディックマイナーを6番目から並び替えたスケールになります。(F#ロクリアン#2はAメロディックマイナーのラシドレミファ#ソ#ラをファ#から並び替えたスケール。ファ#ソ#ラシドレミファ#)。

#2の名前の通り、ロクリアンスケール(7番目に来るメジャースケール)をみつけて2番目の音を半音上げる事でも求められます。F#ロクリアン#2はGメジャースケールの7番目のファ#から並び替え、2番目のソを半音上げてソ#にしたファ#ソ#ラシドレミファ#というスケール。

ロクリアン#2のノンコードトーンの扱い
9th 11th ♭13th

ディミニッシュスケール/スーパーロクリアン♭♭7

ディミニッシュスケールはVIIm-5,VIIdimで使えるコードスケールです。利用頻度は低く、特にスーパーロクリアン♭♭7はほとんど使われません。スケールはハーモニックマイナースケールの7番目の音を1番目にして並び替えたスケールになります。

G#ディミニッシュスケールはAハーモニックマイナー(ラシドレミファソ#ラ)の7番目のソ#から並び替えたスケールでソ#ラシドレミファというスケールなりますが、特殊なスケールになります。スーパーロクリアン♭♭7よりはディミニッシュスケールのほうが有名です。調性感が曖昧になるのでポピュラー音楽ではあまり使われていません

ディミニッシュスケールのノンコードトーンの扱い
9th,11th,♭13th, M7

スーパーロクリアン♭♭7スケールのノンコードトーンの扱い
AV,AV,♭13th

オルタードスケール

VIIm-5やVIIm7-5はメロディックマイナー上の第7音を根音としたコードなので、メロディックマイナースケールの第7音から並び替えたオルタードスケールを用いることができます。根音の半音上のメロディックマイナースケールを1番目から並び替えた物です。Aメロディックマイナーのラシドレミファ#ソ#ラの7番目のソ#から並び替えてソ#ラシドレミファ#ソ#というスケールになりますが、ダイアトニックコードでそのままオルタードスケールを割り当てる用法はポピュラー音楽の世界では極めて少ないです。

主にオルタードスケールはドミナントセブンスコードの響きを多彩にするために用いることがほとんどです。

オルタードスケールのノンコードトーンの扱い
♭9th #9th #11th ♭13th

オルタードスケールにはアボイドが無く、すべてテンション扱いになります。
コードの完全5度が無く、#11として扱われています。

コンビネーション・オブ・ディミニッシュ・スケール(コンディミ)

名前が長いので、コンディミと略して呼ばれるスケールです。ディミニッシュコードとその半音上のディミニッシュコードが合体したようなスケールです。

ディミニッシュといいますが、構造はドミナントセブンスコードのスケールで、V7のコードで使います。dimコードで使われることはほとんどありません。dimコードで使おうとすると、コード構成音以外の音が全てアボイドだらけになります。

ホールトーン・スケール

全ての音が全音(長2度)間隔で構成されたスケールです。オーギュメントコードやドミナントセブンスコード上で使えます。

スパニッシュ8(エイト)スケール

どこかスペインっぽい雰囲気を持ったスケールです。SP8と略して書かれることもあります。8音のスケールなのが最大の特徴です。フリジアンにM3の音が加わったスケールとも言います。P5の音を省略することで♭13をテンションとして使えます。さらに「#11」の音を加える事もあります。

コードスケールの実際の使い方

メジャーキー、マイナーキー共に、自分が使っているコードとコードスケールを常に自分で把握しているように作曲します。同じコードを使ってもどのコードスケールを使っているのかで違いを出せるので、響きの多様性やしゃれた感じを出すことが出来ます。

マイナーキーの場合はナチュラル、ハーモニック、メロディックの3種類をいつでも自由に切り替えて使うことができます。この場合は転調とはいわず、微妙な違いこそあれ同じマイナースケールの違う側面として1つのマイナーキーだと考えます。

・ナチュラルマイナーの特性
ナチュラルマイナーはメジャースケールと構成音が同じです(平行調といいます)。スタート時点が違うだけで、メジャースケールとの違いを出すのが難しいです。ナチュラルマイナースケールだけで曲を書こうとすると、いまいち暗い感じにならなかったり、メジャーとマイナーの判別が難しくなるような曲になってしまうことが多いです。このメジャーとマイナーの明暗をぼかした曖昧な響きが特徴であり、ナチュラルマイナーとメジャースケールの美点であり音楽的効果の特徴です。

・ハーモニックマイナーの特性
ハーモニックマイナーは明確にマイナー感を出せるのが特徴です。メジャースケールとは使っている音が違うので、響きの差別化ができます。曲調に明確にマイナー的な感覚を示したいときに活用しましょう。特にImとV7の組み合わせでのスケールの主音からみた第7音が半音上がった導音としての機能を持つ音は効果的です。メジャーにない音であり、このナチュラルマイナーからみた半音上がった第7音の音を使うことで明確なマイナー感をだせます。

・メロディックマイナーの特性
メロディックマイナーが活用されたのはここ100年ほどの間です。後期ロマン派・近代フランス以前のクラシックではフレーズの上行→下行に登場する程度で積極的に作曲に活用され始めたのはジャズの発展を待たなくてはならず、音楽の歴史から見ればつい最近のことです。

メロディックマイナーとメジャースケールの違いは第3音のみです。メジャースケールの第3音を半分下げたのがメロディックマイナースケールで、後半の音はすべてメジャースケールと同一です。限りなくメジャースケールに近いマイナースケールであるといえます。実際ダイアトニックコードもメジャースケールと共通しているコードが多いです(特にサブドミナントIVとドミナントVのコードが共通です)。作り方によってはメジャースケールと見分けがつかなくなります。違いを決定づける第3音がフレーズに登場しない限り、両者の区別はつかないのです。
メロディックマイナースケールはメジャーとマイナーの2つが同時に存在しているような印象を与えてくれるのです。(調性があやふやでよく分からない複雑な雰囲気)。意図的にメジャーとマイナーのあやふやな調性感の中間性を追求したいときに活躍します。

意識してそれぞれのマイナースケールを作曲に使っていくことで作曲のレベルは向上していきます。

クラシックのメロディックマイナースケール

クラシックの理論書ではメロディックマイナーを上行と下行で異なるスケールとしています。上行時にはメロディックマイナー、下行時にはナチュラルマイナーとなっています。

これはそもそもクラシック音楽にはコードスケールという考え方が存在しないためです。上行と下行でスケールが違っていても、コードスケールで頭を悩ます必要がありません。上行と下行で音がことなるのは上行時は導音を重視し、下行時では導音が無くても困らないからです。

テンションやアボイドなどのノンコードトーンの扱いも、コードトーンが一時的に変化した転位音とクラシックでは考えます。クラシックではメロディックマイナースケールはナチュラルマイナーからみて第6音、第7音が半音上げられた一時的な変化に過ぎないと考えられているのです。

ポピュラー音楽ではメロディックマイナーを一時的な変化では無く完全に独立した一つのスケールと見なします。コードスケールという考え方を適用させるためにも上行と下行で同じ音を使っています。

まとめ

作曲をするにあたり、コード、コードスケール、出身キーの3つを必ず明確にしましょう。コードスケールはメジャースケールとマイナースケールをきちんと覚えているかどうかで決まります。コードスケールは単なるメジャースケールとマイナースケールの転回形にしかないのです(一部の例外を除く)。音楽理論の7割はすべてのメジャースケールとマイナースケールを暗記することだ、というのもあながち誇張ではありません。

参考・出典

Chord-scale system(Wikipedia)
・「作曲基礎理論 〜専門学校のカリキュラムに基づいて〜」 井原恒平 (Amazon)