【コード進行】機能和声(トニック,ドミナント,サブドミナント)とカデンツ終止について【徹底解説】

クラシック音楽の世界では和声法対位法という考え方で作曲しますが、ポピュラー音楽の世界では「コード(和音)1つ+メロディー1つ」という考えで作曲をしていきます。そのためポピュラー音楽ではコード進行で作曲することがスタンダードであり、多くのコード進行を扱った書籍も出版されています。

コード進行とスリーコードについて

曲の雰囲気はコードがどのように移り変わるかによって決まります。このコードの流れをコード進行と言います。インターバルのところでも扱いましたが、完全音程と言われる1度,4度,5度には特別な意味があり、スリーコードと呼ばれています。

KeyCの場合、スリーコードはC(完全1度)とF(完全4度)とG(完全5度)になります。そして、このスリーコードにはそれぞれトニック(I)、サブドミナント(IV)、ドミナント(V)と曲の中での役割、力関係があります。

コード進行の基本

ポピュラー音楽のコード進行などの理論はクラシックの理論を元にして生まれています。特に「機能和声」という考え方は重要でそれぞれの和音に「トニック」「ドミナント」「サブドミナント」という役割を和音(コード)に与えて、それぞれの役割に従ってコードを連結させていく理論です。

和音の3つの種類

音楽理論では和音(コード)に3つの役割を与えています。トニック、ドミナント、サブドミナントの三つです。

トニック(Tonic)
その調の中で中心的な役割を持ちます。演劇で言うと主役のキャラクターです。曲に安定感をもたらし、聴覚的にもとても落ち着いた印象をもたらします。keyでいうと最初のIとなるルート音がトニックの代表的なコードになります。(KeyCならC,KeyFならFがトニック)

ドミナント(Dominant)
Keyの中で完全5度上に構築されるコードが代表で、KeyCならG,KeyFならCがドミナントコードとなります。強烈な不安定の響きである全3音、トライトーン(増4度/減5度)音程を持っており、トニックに強く向かう性質を持ちます。ドミナントの機能をもったコードではドミナントセブンスコードが最もよく活用されているコードで、様々な解釈から拡張や発展、転調のきっかけとして使われたりもしています。

サブドミナント(SubDominant)
Keyの中で完全4度上に構築されるコードが代表で、KeyCならF、KeyFならB♭がサブドミナントコードとなります。トニックとドミナントの間に入り、楽曲を彩る補助的な性質を持ちます。トニックとドミナントは作曲では必須とされますが、サブドミナントは無くても曲が成立するのが特徴です。

スリーコードといわれる3つのI,IV,Vのコードはコード進行の骨格をなす和音です。極端な話、この3つのコードさえあれば曲が作れてしまいます。また、機能はファンクションとも言いますが、単に英語でfunction=機能という意味をそのまま読んだだけです。

コード進行とカデンツについて

コード進行の最小単位と言えるのがカデンツ(カデンツァ)です。もともと終止形としての和音進行のことで、それぞれ和音の機能であるT(トニック)、D(ドミナント)、S(サブドミナント)を組み合わせた進行のカタマリのことです。カデンツの知識は作曲分析にも欠かせない知識です。

■カデンツ進行(コード進行)の例
・T→D→T
トニック→ドミナント→トニック
Key=Cを例に出すと「C(T)→G(D)→C(T)」となり、学校の集会でのピアノでいう「起立→礼→直れ」という印象です。

・T→S→D→T
トニック→サブドミナント→ドミナント→トニック
KeyCだと「C(T)→F(SD)→G(D)→C(T)」となり、これは「起立→礼→直れ→着席」というイメージです。基本的なコード進行です。

・T→S→T
トニック→サブドミナント→トニック
KeyCだと「C(T)→F(SD)→C(T)」となります。

なお、クラシックでは以下の進行のD→Sのようにドミナントからサブドミナントに進行することはほとんどありません。理論書にもだいたい省かれています。

・T→D→S→T
トニック→ドミナント→サブドミナント→トニック
なお、こちらはブルースを源流とするポピュラー音楽のジャンルではよく使われます。

コード進行はこのようにそれぞれの機能を持ったコードをカデンツに沿って並べることで成立します。

メジャースケールにおける和音の機能

それぞれの調(スケール)が持つダイアトニックコードの各音のディグリーをベースにして機能が割り当てられています。より一覧として知りたい方は資料・付録をご活用ください。

Key=Cをベースに説明します。
・I I6 IM7→【トニック】 例:C C6 CM7
・IIm IIm7→【サブドミナント】例:Dm Dm7
・IIIm IIIm7→【トニック】例:Em Em7
・IV IVM7 IV6→【サブドミナント】例:F FM7 F6
・V V7→【ドミナント】例:G G7
・VIm VIm7→【トニック】例:Am Am7
・VIIm-5 VIIm7-5→【ドミナント】例:Bm-5 Bm7-5

この中で主要3和音と言われるのがIとIVとVの和音(スリーコード)で、他はその副3和音(代理和音)となります。代理コードの条件は、スリーコードと共通している音が多いコードです。機能の面からも主要3和音を用いることでしっかりとした調整感と安定性をもたらすことができます。

また、I度の和音は主和音IV度の和音は下属和音V度の和音は属和音といいます。転調で必要になる調の名称もIV度の調は下属調(Cに対してのFメジャー)V度の調は属調(Cに対してのGメジャー)といいます。

副3和音(代理和音)は主要3和音と構成音が近いため似たような機能を持った和音のことです。曲に変化を与えるために同じ機能を持った別の和音を使いたいときに大活躍します。

付加6のシックスコードはI度とIV度上にのみ使えます。

マイナースケールにおける和音の機能

短調(マイナーキー)は3種類あるので使える和音の種類も一気に増えます。

Aナチュラルマイナーを例に出して説明します。
・Im Im7 Im6 ImM7→【トニック】例:Am Am7 Am6 AmM7
・IIm-5 IIm7-5→【サブドミナント】例:Bm-5 Bm7-5
・♭III ♭III6 ♭IIIM7→【トニック】例:C C6 CM7
・IVm IVm6 IVm7→【サブドミナント】例:Dm Dm6 Dm7
・(Vm Vm7 トライトーンがないので完全なDではない) V V7→【ドミナント】例:Em Em7 E E7
・♭VI ♭VI6 ♭VIM7→【サブドミナント(トニック)】例:F F6 FM7
・ VIm-5 VIm7-5→【トニック】例:F#m-5 F#m7-5
・♭VII ♭VII7→【サブドミナント】例:G G7
・VIIm-5 VIIdim VIIm7-5→【ドミナント】例:G#m-5 G#dim G#m7-5

VmとVm7はナチュラルマイナースケールで導音がないので増4度(減5度)音程のトライトーンが作れず、完全なドミナントとは言えません(副次的なVの和音としてDの機能は持ちます。)♭VIの和音の機能はサブドミナントかトニックどちらで扱うのか理論書によって諸説あります。(4和音の♭VIM7はトニックの3和音を含んでいるのでトニックとしても扱えるのです。)

付加6のシックスコードは、マイナーキーではメジャーキーとは異なり、I度IV度のほかに♭III度と♭VI度の全部で4つあります。

メジャーとマイナーで同じコードでも機能が異なることも要注意ポイントです。(構成音が全く同じCメジャーとAナチュラルマイナーにおいてGという和音がCではドミナント、Aマイナーではサブドミナントの機能を持つ。)

強進行と隣への進行(STM)

■強進行
強進行とは「完全4度上昇するコード進行」のことです。
「Dm7→G7」
「G7→C」
などがそれに当たります。ドミナント→トニックとコードの機能にもぴったりと合っています。中でもサブドミナントと組み合わせた「Dm7 → G7 → C」というコード進行はよく使われ、「2度→5度→1度」の進行から「ツー・ファイヴ・ワン」と呼ばれます。

強進行は「完全4度」の進行なので、「増4度」とは違います。そのコードのルート音のKeyでいう完全4度の音を考えてみましょう。コード進行にオクターブは関係ないので、「完全4度上昇」も「完全5度下降」も同じ強進行です。「Dm7→G7」という進行を例に出すと、「Dm7」から完全4度上の「G7」へ進んでも、完全5度下の「G7」へ進んでもどちらも「強進行」と見なされます。

■隣への進行(STM,スケールトーンモーション)
隣への進行は「スケール・トーン・モーション」とも呼び、スケールのダイアトニックコード上で構成される隣同士のコード、例えば「CとDm7」「G7とAm7」「Em7とFM7」への進行のことです。

終止について

音楽のフレーズの一区切りとして終止があります。この終わり際のコードを調整することで、どのような終止感をもたらすのか(完全に終わっている感じ、まだ何か続きそうな感じなど)をコントロールすることが出来ます。この終止の使い方で作曲家の個性が出ます。

完全終止

G7→C(最高音がド)
D→T

G7→Cm(最高音がド)
D→T

ドミナントの和音からトニックの主和音に進行し、トップノート(最高音)が主音で終わることを完全終止といいます。完全に終わった聴覚的効果を与えます。学校の挨拶のピアノでの「起立→礼→着席」のような単純明快な感じです。クラシックや民謡、童謡に多く含まれます。マイナーキーではVmではなくV7(ドミナントセブンスコード)を用いることが多いです。

不完全終止

G7→C(最高音がミ)
D→T

G7→C/E(Cの第1転回)
D→T

完全終止と似ていますが、最後の和音の主音以外の音がトップノートになっていたり、転回形になっている点が異なります。終止感が薄れるため不完全終止と呼びます。実際にあまり終わった感じがしません。

偽終止

G7→Am
D→T

G7→Em
D→T

最後のトニックに進むときに、主和音では無くその代理和音のトニックに進むことを偽終止といいます。終わりそうに思えて終わらないフェイントのような使われ方をします。CメジャーキーではAmとEmがそれにあたり、どこか肩すかしを食らったかのようなまだ続いている印象を与えます。不完全終止よりもいっそう終止感が薄れています。クラシックの理論ではG7→Amのみを偽終止としています。
key=Cの場合は「G→C」ではなく、「C」以外の他のトニック「Am」「Em」に置き換えます。G,G7からC以外のトニックに進む進行とも言えます。必ずその調のドミナント(V,V7)を経由します。

半終止

〜 → G7
〜 → D
フレーズの最後の音がドミナントの和音で終わることを半終止といいます。明確な終わりを持たないBGMなどの楽曲で多用されています。繰り返しの部分や次のフレーズへ進むためのステップとして用いられます。まだまだ続きそうな感じがする終止です。

変終止

F → C
S → T
サブドミナントからトニックに移動する進行を変終止と言います。教会音楽では常套句的に用いられ、アーメン終止とよばれることもあります。

女性終止

G7 → C(3拍目)
D → T

リズム(拍)の違いによる終止です。小節の頭(強拍)ではなく、それ以外の弱拍部分で終わる終止を女性終止といいます。クラシック音楽ではベートーヴェンは男性的リズム、ドビュッシーは女性的リズムを多用する傾向にあると言われており、作曲家の個性に関わる部分です。

自分でコード進行を作るに当たって コード進行の応用

コード進行を制作するに当たってのヒントのまとめです。

・4小節・8小節が音楽の基本単位
ポピュラー音楽では4小節・8小節を最小の基本単位として使います。まずは4,8小節でコード進行をみっちりと練習して基礎をみにつけましょう。

・最初か最後のトニックは省略可能
カデンツはトニックに始まりトニックに終わりますが、最初のトニックも省略可能です。始まりと終わりのどちらかのトニックを省略した場合、もう一方のトニックは省略することはできません。

・1つの機能の中にいくつでもコードを入れられる。
同じトニック、ドミナント、サブドミナントという機能の中に同じ機能の和音を何個でも入れることが出来ます。

C C C F
 T  S
Cの和音が連続で入っていますが、これで1つのトニックだと考えます。

C Am Em G
T D
CとAmとEmはすべてトニックとして考えられるので一つのトニックとして考えます。

・コード進行は必ずしも「T」から始める必要はありません。
「F(SD)→G(D)→C(T)」

・「T」で終わる必要もありません。
「C(T)→F(SD)→G(D)→F(SD)」

「T」が中心となっている感覚があればいいので、「T」で始まるか、終わるかしていれば最低限成立します。

・同じ機能を持つコードをつなげて1つのTとして扱ったりもします。
「C(T)→C(T)→F(SD)→G(D)」

カデンツは柔軟に解釈の幅を広く持つことがポイントです。

実際のコード進行の組み立てまとめ

1,どのダイアトニックコード、調を使うのかを決めます。
2,何小節作るのかを決めます。
3,どのカデンツに沿って和音を組み立てるのかを決めます。

コード進行のポイント(注意点)は以下のとおりです。
・コード進行とはルートの進行が最も重視される。
・コード進行にはオクターブの違いは関係無い。

コード進行だけで一冊の本が出版されるぐらいコード進行には幾通りの可能性もあります。少なくともカデンツに沿っている限り不自然には聞こえないので、省略や同じ機能を持ったコードは何個でも使えることを柔軟に捉えて自分の曲を作っていきます。

また作曲のために、基礎中の基礎であるすべてのダイアトニックコードとコードの構成音がすらすらと口に出来るぐらいしっかり暗記しておきましょう。ディグリーで覚えてしまえば、あとはそれぞれのキーの構成音を当てはめるだけなので4種類のダイアトニックコードを構成するコードのディグリーを覚えましょう。

参考・出典

Chord Progression (Wikipedia)